2009年4月急施臨時会 議案質疑
「名古屋市の公立保育園を廃止・民営化することの是非を問う」
住民投票に関する条例の制定について
山口きよあき議員(4月6日)

公立保育園を廃止・民営化することは、名古屋の保育行政の根幹を揺るがすもの。住民投票で是非を問うのは当然です

住民投票条例についての市長の認識を問う

【山口議員】
「名古屋市の公立保育園を廃止・民営化することの是非を問う」住民投票に関する条例の制定について、日本共産党名古屋市議団を代表して質問します。

「子育てするなら名古屋市で」と胸をはれる市政の実現は、市民共通の願いです。本市の子育て支援の中心は、子どもの医療費助成の拡充と保育施策の充実です。その保育施策の三本柱が、国基準より低く抑えた保育料、民間保育園への運営費補給金、そして中学校の数より多い公立保育園の存在です。

いま、その一角である公立保育園の廃園・民営化をすすめる計画に対して、その是非を住民投票で問うことを求めて約13万人もの署名が提出されたのです。私たちはまずこの重みをしっかりと受け止めるべきです。

市長は、議会で慎重に審議をして結論を出したと言われましたが、その議会の結論と市民の思いに大きなギャップが生じた時には、あらためて市民の意思を住民投票で問うのが、民主主義ではありませんか。市長の答弁を求めます。

議会で議論し、結論が出ている(市長)

【市長】
市民の意見を踏まえ、議会での十分な議論をいただき、結論が出されている。今後も市民に丁寧な説明を行うとともに、議会の理解を得ながら、保育施策を進めたい。

公立保育園の肩代わりでなく、待機児童の解消に民間保育園の力をいかせ

【山口議員】
小泉内閣のいわゆる「三位一体改革」は、国の補助金・交付金を削りながら、それに見合う財源を地方に渡さず、自治体財政を圧迫しました。そのしわ寄せが各地で保育予算の削減となり、老朽化した園の改修や建て替えもままならぬ事態が頻発しています。本市でも、公立保育園の建て替えを契機に廃園・民営化が計画されました。

しかし、この事態は国会でも問題となり、3月26日の参議院総務委員会では、鳩山総務大臣が、三位一体改革の結果、全国に広がった公立保育所の削減傾向を「非常に危険なものに感じる」「子どもに様々な悪影響、被害が出ることがあってはならない」とかなり踏み込んだ答弁をしました。

公立保育園の削減は「危険な傾向」と大臣が答弁するまでに状況は変わっています。名古屋市が自らの責任で保育園の予算を確保し、国に対して、公立保育園への交付金復活を強く迫るのが、市長、あなたの責任です。

交付金がなくなったから民間の力を借りる、と言いますが、安易に考えては困ります。引き受ける社会福祉法人は、それなりの自己資金を用意し、丁寧な引継ぎのために相当の人材とエネルギーを費やすのです。まず123の公立保育園をしっかり維持し、民間の力は待機児童の解消に活かすべきです。

いま本市の保育所待機児童は昨年4月時点で428人、一昨年までの300人台から増加に転じました。ベビーホテルなど無認可の保育施設にも約1600人が預けられています。一時保育をつなぎあわせて、なんとか仕事を続けている母親もいます。区役所で「保育園にまず問い合わせて、入れそうなら申請して」と言われ、いくつもの保育園で満員だと断られ、申請自体を諦めた人もいます。このようなケースをあわせれば市内の待機児童はゆうに2千人以上にのぼります。また定員超過で受け入れた児童も1800人を超え、すし詰め保育も限界です。

民間保育園には、公立保育園の肩代わりをさせるのではなく、待機児童を解消する保育園づくりにこそ、力を注いでもらうべきではありませんか。お答え下さい。

民間保育所の新設や老朽化した公立園の民間移管で充実を図る(局長)

【子ども青少年局長】
平成20年4月の待機児童428人の99%は3歳以下の児童であり、また緑区、守山区、名東区の3区で69%を占めるなど、年齢や地域による大きな偏りがある。こうしたことから、3歳以下の児童の待機解消に焦点を当てた定員枠の拡大や家庭保育室の拡充に努めている。

保育所の新設は、待機児童の多い区を中心に、国の補助を活用した民間保育所の新設を進めたい。あわせて、老朽化が進む公立保育所の民間移管を進め、民間保育所の特色を活かしながら、定員増や多様な保育ニーズへの対応、保育環境の充実を図りたい。

待機児童の解消は喫緊の課題と認識しており、民間保育所の新設のほか、様々な手段を組み合わせて、総合的に実施していく必要がある。

公立保育園の削減は、市が自らかかげた公立保育園の役割を投げ捨てる

【山口議員】
「名古屋保育施策のあり方指針」では公立保育園の役割を、スタンダードな保育の提供、人材養成の拠点、子どもや家庭の状況を直接把握する行政のアンテナ、子育支援の拠点、配慮を要する児童を受け入れるセーフティネット、の5点にまとめています。

この公立保育園を、センター保育所として就学前児童1000人から2000人のエリアに一つは残すとしていますが、試算するとエリアは約80です。中学校数110よりかなり少ない。そこまで減らして、公立保育園の役割が十分に果たせるのでしょうか。

例えばセーフティネット。子どもの貧困がいま大きな社会問題です。余裕があれば保育園を選べます、余裕がない家庭にもエリアに一つ公立園がある、これではダメなのです。

子どもに対するセーフティネットには、援助や配慮が必要な子どももみんなと同じ保育園に通え、共に育つことを保障する仕組みが大切です。様々な負担の心配がない公立保育園が、民間保育園と同じように身近な地域に存在してこそ有効に機能するのです。

また一人親家庭や派遣など不安定就労家庭の子育て支援には、経済的な心配がなく、経験豊かな保育士がたくさんいる保育園が不可欠です。両方を兼ね備えた公立保育園は、いまの時代だからこそ大切なのです。

セーフティネットを例にあげましたが、公立保育園の削減は、市が自らかかげた公立保育園の役割を投げ捨てることになりませんか。子ども青少年局長に答弁を求めて、壇上からの質問を終わります。

公立・民間の連携で地域の子育て支援に責任を持ち、多様な需要に対応(局長)

【子ども青少年局長】
名古屋市の保育は公立・民間の保育所が両輪となって担っており、国の「保育所保育指針」に基づく保育や職員の配置基準に変わりはなく、保育料も公立・民間ともに同額となっている。

平成19年10月の「名古屋市保育施策のあり方指針」で、公立保育所をおおむね1〜2中学校区ごとに配置し、公立・民間保育所が協働、連携して地域の子育て支援に責任を持ち、多様な保育需要龍適切に対応していくこととした。こうした協働、連携の中で、公立保育所としての役割をしっかりと果たすことができる。

議会の結論と市民の意思が離れているから、住民投票を求めているのだ

【山口議員】
市長、最後までかみあわない答弁でしたね。議会の結論と市民の意思が離れているから、住民投票を求めている。公立保育園の廃園・民営化の是非は、名古屋市の保育施策の根幹にかかわる問題です。議会制民主主義のもとでも、市民の意思を改めて問うことが必要だと指摘しておきます。

局長の答弁にも納得いきません。待機児童は400人という認識がまず問題です。ここから改めていただきたい。そして民間にがんばってもらう前に、保育の実施責任をもつ名古屋市が、まず踏ん張る姿勢を示すべきです。それが、市長がよく言う市民との「協働」ではありませんか。時間がありません。後は、常任委員会での慎重な審議に委ねて、私の質問を終わります。

【参考・請求要旨】
『名古屋市の公立保育園を廃止・民営化することの是非を問う」住民投票に関する条例制定請求書

名古屋市には現在159の私立保育園と123の公立保育園があり、保育園に入れない待機児童の解消と子どもたちの健やかな成長をめざして保育をすすめています。公立保育園は「ポストの数ほど保育所を」という市民の切実な願いと運動でつくられてきました。1974年には公立も私立も同じ条件で保育ができるよう、公私間格差是正制度を実現してきました。

しかし、2007年に則武保育園が廃止・民営化され、新たに3園の廃止・民営化が強行されようとしています。市は更に最大で50園近い公立保育園を順次廃止。民営化していく計画を打ち出しました。

民営化について市は、「公立で残してほしい」という保護者や地域の願いに全く耳を償けようとしません。しかし、運営者が変わることは、長い歴史の中で培われた保育、地域とのつながり、子どもが慣れ親しんだ園・保育士との関係を引き裂く大変な問題です。

名古屋市が昨年公布した「なごや子ども条例」には、子どもは自分たちにかかわることについて主体的に参加するため意見を表明する機会が与えられる」ことなどが記されています。子どもを泣かせる民営化の強行はこの主旨にも反するものです。

保育だけでなく名古屋市は、国民健康保険の減免制度や敬老パスなど、かつて「福祉日本一」といわれたすぐれた施策を次々に切り下げてきました。更に高齢者や障がい者施設の民営化、市民病院の統廃合、市民プールの廃止や区役所の税金窓口をなくし市内3ヶ所の市税事務所にする計画などをすすめています。一方で大企業優遇の大型事業を続々と打ち上げ、ポスト万博の4大プロジェクトの総事業費は1,000億円にものぼります。名古屋市は財政が厳しいといいますが、不要不急の大型事業を見直せば財源は十分に確保できます。

いま、若年層の雇用状況の厳しさが社会問題となっています。生活困難の広がりの中で、子育てを社会的に応援する体制づくり、待機児童(H20/4現在428人)の解消にむけて公・私立保育園の充実こそが求められています。

公立保育園の廃止・民営化は、財政難のつけを子ともと子育て家庭におしつけ、公私間格差是正制度の見直しなど私立保育園を含めた公的保育制度の後退につながります。私たちは子どもの権利奉約にある「子どもの最善の利益」の実現と安心して子育てできる街をめざして、公立保育園の廃止。民営化の是非について住民投票で問うことを請求します。

【市長の意見】

本市における保育の実施については、公立・民間の保育所が両輪となって担ってきており、平成20年4月現在、123箇所の公立保育所に10,927人の児童が、159箇所の民間保育所に20,756人の児童が入所しているところである。

本市の保育を取り巻く状況を見るに、希望しても保育所に入所することのできない待機児童の解消が大きな課題となっている。また、保護者の働き方の多様化や核家族化の進行などにより、延長保育、一時保育などの多様な保育需要に対応する必要性がますます高まってきている。その一方で、国の方針変更により、公立保育所の整備・運営については、国からの交付金等が受けられなくなったところである。

こうした課題に対しては、限られた財源と人員を確保しつつ、公立保育所と民間保育所がそれぞれの特色を生かしてその良さを発揮し、ともに子育て支援に責任を持ち、多様な保育需要に協働して対応していくことが必要である。

そのため、子どもにやさしく子育てしやすい名古屋を目指し、働くことと子育ての両立に最も重要な施策である保育施策のあるべき姿と、今後10か年における具体的な推進策などを示した「名古屋市保育施策のあり方指針」を、平成19年10月に策定した。この指針を踏まえ、公立保育所については、民間保育所とともに保育の質の向上や子育て支援の推進を図るため、多様な保育需要に的確に対応しつつ、保育所間のネットワークの調整役等を果たす「センター保育所」として、概ね1〜2中学校区に1か所残すこととした。そのうえで、一部の公立保育所については、社会福祉法人によって、国の交付金等を活用した整備・運営を行う、民間移管を実施することとしたものである。

なお、民間移管に当たっては、保護者の方の理解が得られるよう丁寧な説明に努めるとともに、本市において保育所の運営実績のある社会福祉法人を対象に、保育内容や運営等についての条件を定めて公募し、公正に移管先を選定している。また、保育士が一斉に変わることによる子どもたちへの影響を少なくするため、法人の保育士と子どもたちが信頼関係を築くことができるよう、移管前の共同保育の体制を充実させることによって実施しているところである。

本市においては、今後とも、子育てと働くことの両立を支援し、子どもたち

が心身ともに健やかに育つことを第一に考え、子どもを育てる環境をよりよいものにするという保育の理念をしっかりと踏まえ、保育施策や事業を推進していくものである。

ところで、この条例の趣旨は、公立保育園の廃止・民営化の是非について住民投票を実施するというものであるが、この是非の判断に当たっては、議会制民主主義をとる地方自治制度の趣旨に則り、名古屋市会における適正かつ慎重な審議を経て決定しているところである。

まず、平成19年の「名古屋市保育施策のあり方指針」の策定に当たっては、パブリックコメントの実施によって広く市民意見を聴取するとともに、議会にも諮って策定しており、名古屋市則武保育園の社会福祉法人への移管についても、議会の議決を経ている。

また、「公立保育所の廃止・民営化をしないこと」を求める主旨の請願については、平成20年度に4件提出されているが、いずれも、議会において慎重な審議のうえ不採択の決定がなされている。

さらに、各古屋市千種台保育園及び名古屋市山田保育園の廃止に係る名古屋市児童福祉施設条例の改正や、社会福祉法人による新保育所整備等の予算を含む平成21年度予算についても、平成21年2月定例会において慎重な審議のうえ可決成立している。

以上のことを踏まえると、本市の公立保育所を民間移管することについては、議会制民主主義のルールに基づき審議決定がなされてきたところであり、その是非について住民投票を行うこととするこの条例を、あらためて制定する必要はないものと考える。

 

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