2003年6月議会 議案外質問
福祉給付金の改定による影響について
【山口議員】
いま、市民の家計、とくに低所得者の家計がダブルパンチに襲われています。一つは小泉内閣による構造改革という名の倒産と失業増大、社会保障切り捨て政治。もう一つは名古屋市の財政再建に名を借りた数々の福祉切り捨てです。私は、とりわけ市民の不安と負担が大きい二つの分野について質問します。
患者負担増で受診が減るのでは
【山口議員】
福祉給付金の改悪など高齢者世帯の負担増についておたずねします。
昨年10月に老人医療が1割(2割)負担に改悪されました。ある病院の売店では、朝のお客さんが減ったそうです。「診察が終わり会計が済むまで、いくらかかるかわからない。心配で買い物もできない」というのです。その患者さんが帰りに売店で買う品物に、晩のおかず=パックのお惣菜が増えています。「身体も悪いし、交通の便も悪い。途中のお店に寄れないから、病院で買い物も済ます」とのことでした。
1割負担は、高齢者にとって大きな負担です。「いくらかかるかわからない」―この不安から高齢者を救うことこそ求められているのではないでしょうか。ところが、名古屋市が8月に予定している福祉給付金の改定は、より所得の少ない市民税非課税の高齢者世帯に、1割負担を迫るのです。今年、国は年金支給をカットしました。物価スライド凍結解除による0.9%カットは、他に収入がない高齢者には大打撃です。加えて本市の介護保険料引き上げで、手にする年金額はさらに少なくなります。それぞれ制度は違いますが、お金が出てゆく財布はいっしょなのです。
この福祉給付金の改定により、8月から約7万9千人が1割負担になります。この改定は十分に知らされているでしょうか。そしてこれにより受診が妨げられることははないのでしょうか。ある開業医の先生は「制度変更のポスターを窓口に貼りたいが、貼ると患者が減りそうで、恐くて張り出せない」と嘆いていたそうです。また別の開業医の先生は「4月の医療改悪=健保・国保の本人負担増で、患者が約一割減ったが、今度はもっと減るだろう。とくに港区など名古屋南部は福祉給付金の患者が多いので深刻な影響があると思う。」と話して下さいました。港区では高齢者世帯の4割近くが福祉給付金の対象者なのです。
市の予算では、対象の高齢者一人あたりの負担増は単純計算で年間6万円をこえます。私が調べたところでも、老人保健の患者負担は通院の場合、少なくとも平均で一ヶ月に約1700円、年間では2万円を越えます。在宅酸素療法の患者さんでは毎月限度額の8千円をこえる負担を強いられる方もあります。糖尿病など慢性疾患の患者さんや、抗がん剤の定期投与が必要な方など、定期受診が欠かせない方ほど負担はより深刻です。
2月議会で松原市長は、代表質問の答弁で受診抑制について「現時点で、その影響を推し量ることは困難」と答えておりますが、実施を直前にした現時点で、あらためて質問いたします。この改定によって高齢者の受診動向に変化が生じると考えているのかどうか、まずお答ください。そして今回の制度改定によっても受診が減らないとすれば、患者負担はどのように増えるのか、その負担増は非課税世帯の高齢者にとってたいへん重いと私は考えますが、健康福祉局長の認識をお聞かせください。
【健康福祉局長】
影響を推し量ることは困難だが、自己負担と受診抑制という観点から、国における過去の制度改正の例をみても、両者の因果関係を読みとることは困難だ。
今回の見直しによる負担は、1人あたり、入院・外来を含め、月に3千円から4千円ほどになるが、市民税非課税世帯の方に対しては、高額医療費支給における自己負担の減額制度を活用していただきたい。
改定実施の凍結を
【山口議員】
福祉給付金の見直しの問題は、2月議会でも繰り返し議論され、とくに低所得者についての配慮を求める要望が、与野党問わずいくつも出されています。
松原市長!高齢者のくらしと負担をトータルに考えたとき、いまの時期の福祉給付金改定による負担増はあまりに重い。このさい8月実施は凍結すべきだ、と私は考えますが、市長の見解を求めます。
【松原市長】
改定の実施を凍結したらどうかとの提案だが、今回の見直しは、今後の高齢者人口の増加などを踏まえ、将来的にも持続可能な制度とするため、この8月に実施することにしたものだ。
福祉給付金見直しに伴う受診動向や家計実態の追跡調査を
【山口議員】
福祉給付金の見直しは凍結できないとの市長答弁でした。残念です。納得できません。また福祉給付金見直しについて「影響を推し量ることは困難」「自己負担と受診抑制の因果関係を読み取ることは困難」との局長答弁でした。負担は、月に3千円から4千円の負担との答弁でしたが、これは1年間では3万6千円から4万8千円もの負担です。5万円ほどの国民年金で暮らしている方にはほんとに大きな負担です。患者さんの声は切実です。ある5万円の国民年金の一人暮らしの方は「公営住宅の家賃が2万円。高血圧の通院はやめれない。今度からは生活保護にならんといかんかな」と嘆いています。
答弁では、「高額医療費の自己負担減額制度の活用」とおっしゃいましたが、この限度額は通院で月8千円ですよ。平均3千円〜4千円負担の患者さんのうち、いったい何人がこの制度で救われると考えているのですか。多くの方が受診を手控える恐れがあると改めて指摘しなければなりません。
そこでお聞きします。
見直しの影響を「推し量る」のが困難ならば、制度見直し前後の受診動向や非課税世帯の家計実態を追跡調査すべきだと考えますが、いかがでしょうか。
【健康福祉局長】
今回見直しの対象となる「市民税非課税世帯」に限っての受診動向や家計実態の調査は、個人情報保護の観点からも困難だが、名古屋市の老人保健医療全体の受診率、あるいは医療費の動向などは、引き続き統計的な把捉は可能と考えている。また、高齢者に対する各種調査の結果なども参考にしたい。
「ひとり暮らし世帯」等へは福祉給付金制度の継続を
【山口議員】
非課税世帯のなかでもとくに大変な方だけでも救うことはできないのでしょうか。
ひとつは、「1人暮らし世帯」です。市内には約2万8千人です。県の福祉給付金制度では支給対象になるこの方々まで、支給対象から外すのは、あまりに冷たい。様々な不安が大きい1人暮らし世帯への暖かい配慮が必要です。
もうひとつは新設された介護保険料の減免基準です。非課税世帯のうち、さらに所得が少なく、かつ貯蓄も少ないという非常に狭い範囲ではありますが、福祉給付金の対象者では、約3千5百人に年間で9460円に保険料を減免します。ところが、この減免金額の3倍、4倍の負担を同じ人達に新たに強いるのは、せっかくのこの制度が無意味になるのではありませんか。ブレーキとアクセルを同時に踏むような施策と言わざるをえません。
「持続可能な制度とするため」の見直しと言われますが、利用する方がいてこそ、制度の意味があるのではないでしょうか。改定を凍結できないと言うのならば、せめて「ひとり暮らし世帯」「保険料減免世帯」だけでも、福祉給付金を継続すべきではないでしょうか。
【健康福祉局長】
今回の見直しは、今後の高齢者人口の増加や厳しい財政状況等を勘案し、見直さざるを得ないとの判断に至ったが、「ねたきり・痴呆」の高齢者の方に対しては、引き続き助成していく。これは、他都市との比較においても、なお高い水準にある。
「ひとり暮らし」は、平成12年に福祉医療全体にかかる見直しをした際、本市の福祉給付金制度においては、「ひとり暮らし」という要件によるものではなく、「市民税非課税世帯」という基準の中で、対象としてきた経緯があるので、今回の「市民税非課税世帯」の見直しにあたっても、「ひとり暮らし」の方を含めて見直した。
(「減免世帯」への言及が無かったことだけ指摘したが、時間の都合でそれ以上追及できず、残念…山口)
介護保険の住宅改修制度の運用改善を
償還払いが大きな負担
【山口議員】
所得の少ない高齢者は、介護保険でもよけいな出費を強いられることがあります。そのひとつが手すりやスロープ設置などの住宅改修制度です。
この制度の利用は2000(平成12)年度3041件、2001(平成13)年度4996件と伸びています。しかしこの制度は償還払いのため、まず全額を支払い、あとで9割が戻る仕組みです。
ところが多くの利用者は、病院や施設から自宅に戻る時に、この改修を必要とします。いくつもの支払いが重なってたいへんです。現金が用意できないときはどうするか。そのためのローンがあります。もちろんそこでは数%の利息が必要です。たくさんの書類を揃えたりと利用者にも事業者にも負担です。家計が困難な人が、利息まで支払わないと制度が利用できないというのは、ちょっと理不尽ではないでしょうか。
そこでお聞きします。せめて1割の負担で、すぐ工事が発注できるよう制度の運用改善がいますぐにでも必要と考えますが、いかがでしょうか。
【健康福祉局長】
住宅改修費の支給は、一旦全額利用者が負担し、限度額の範囲で9割分を返す償還払いとなっている。一時的に、利用者の経済的負担となるので、当初から1割の負担で利用できるよう、受領委任払方式への変更を検討することを、この3月に改定した、第2期の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画の中に位置付けた。
早期改善を
【山口議員】
住宅改修制度は、検討を開始したとの答弁をいただきました。一日でも早い運用改善が待たれています。はつらつ長寿プランの第2期計画は5ヵ年計画ですが、5年を待たず、即時の改善を重ねて要望いたします。
学童保育について
学童保育への助成
【山口議員】
子育て世帯、とりわけ一人親世帯と学童保育についてうかがいます。
近年離婚率の上昇などに伴い一人親世帯が増加しています。ところが国の児童扶養手当が改悪され、名古屋市の遺児手当も所得制限が強化されます。一人親世帯にいま、負担増の大きな不安が広がっています。少なくない母親が、パートなど不安定・低賃金の仕事についています。なかにはいくつかの仕事を掛け持ちし、長時間働いている方もあります。そんな一人親世帯の子育てを、名古屋市の医療費助成制度、そして保育制度などが支えています。これらの福祉制度はほんとに感謝されています。いま問題は、子どもが小学校に通うようになってからです。そこでは学童保育所が、一人親世帯を支える役割を果たしています。
公営住宅が多い港区内の学童保育所では、一人親世帯が利用者の3割から5割をしめる学童保育所もあります。学童保育所は「共働き世帯の就労を支援(市行政評価)」するだけでなく、一人親世帯の就労を支援する「福祉」施設になっているのです。この役割は「遊びの場を提供する(市行政評価)」トワイライトスクールでは果たしきれません。
しかし学童保育所の保育料は、一人親世帯の保護者にとりけっして安くありません。かなりの負担です。私は、その原因のひとつが本市の学童保育に対する補助水準の低さにあることを指摘しないわけにはいきません。学童保育への補助は、1998年に本議会でも採択された「午後6時まで補助対象に」「実態に見合った家賃補助を」の二つの請願項目さえ、そのまま。とうとう請願採択から5年も過ぎました。名古屋市が、本気に就労支援をするなら、保育園同様せめて6時まで補助するのは当然ではありませんか。すでに保育園では6時以降の延長保育が焦点になっているのに、この遅れは許せません。なぜこの二つの採択請願をいつまでもほかっておくのでしょうか。
そこでお聞きします。「6時まで補助対象に」「実態に見合う家賃補助」の2項目はすぐにでも実現すべきだと考えますが、5年たってもなぜこの2項目が実現できないのか、特別な理由があるのならお聞かせください。学童保育の充実は、一人親世帯を支えるためにも、ぜひとも必要な施策と私は考えます。議会での請願採択の重みをしっかり受けとめていただきたい。あらためて、この問題に対する市長の見解をお聞きいたします。
【市長】
平成10年に採択された請願の実施状況について、財政状況勘案のうえ採択された事項は、(1)午後6時までの1時間延長(2)家賃補助の増額(3)障害児の受け入れだ。このうち、障害児の受け入れは、平成13年度から障害児4人以上を受け入れた場合の助成を実施し、更に、平成15年度にはこの基準を緩和し、2人以上の受け入れに対して助成することとした。
他の事項は、育成会への助成金をトータルで見た場合、従来から国の補助額を上回っていること、また、財政事情が大変厳しいことから、実施にいたっていない。
ひとり親世帯への支援策
【山口議員】
高い保育料のため、学童保育を利用できない保護者も少なくありません。その一方、ほとんどの学童保育では自分たちの努力で、一人親世帯の保育料を軽減しています。港区内のある学童保育所では、3割の世帯が一人親世帯。正規の保育料の約3分の1、月額4500円を軽減しています。そのため年間では40万円をこえる持ち出しです。学童保育への市の補助金は平均で一ヶ所あたり年間400万円以下です。その約1割、年間40万円は少ない額ではありません。しかし残念ながらそれに対する公的助成は何もありません。
半田市などでは、すでに一人親世帯への学童保育料補助が制度化されています。今年度は5年ごとに行う「ひとりおや世帯等実態調査」の年でもあります。ぜひ、ひとり親世帯の生活実態と、それを支えてがんばっている学童保育の実態をしっかり見てください。そのうえで、おたずねします。急増する一人親世帯を支援するため、名古屋市でも、学童保育保育料への何らかの助成制度が必要だ、と私は考えますが、その必要性について、どう考えているのか、見解をお聞かせください。
【健康福祉局長】
本市の留守家庭児童健全育成事業は、地域の留守家庭児童育成会に対して運営助成を行っており、指導員の手当など育成会の運営に要する費用を助成対象としている。
実態に合わせた補助が必要だ
【山口議員】
ひとり親世帯の支援、学童保育については、冷たいというか、つれない答弁でした。私は、市長に、なぜ6時まで補助を伸ばせないのか、家賃補助を実態に見合うものになぜできないのか、お聞きしたのに、市長の答弁は、国の補助額を上回っている、財政事情が厳しい、という従来どおりの答弁でした。
国の補助では、現場の実態に全然見合っていないからこそ、自治体独自の補助が必要なのではありませんか。そして財政事情が厳しいと言い続けてきたこの5年間に、指摘したように一人親世帯が急増し、学童保育所の社会的役割がますます重要になってきたのです。そこをしっかり見ていただきたい。
局長答弁では、「育成会の運営に要する費用を助成対象」としているだけで、一人親世帯への支援策は何もお答えになりませんでした。私は一人親世帯への独自助成の必要性はこれからますます高まっていくと思います。この問題は、「ひとり親世帯実態調査」の結果もふまえて、今後ともさらに追及していきたいと思います。
市民の懐は、ほんとに冷え込んでいます。国の悪政が続く中、これまで当局の努力と多くの市民が力をあわせて、守り育ててきた本市の福祉制度が、いまこそ存在意義を発揮する時です。その時期の見直しだけにほんとうに残念でなりません。今後とも、市民の暮らしを守るためにご努力いただくよう要望して質問を終わります。
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