2012年2月定例会

山口清明議員の個人質問① 南京虐殺を認めないのか(2012年3月5日)

市長の歴史認識と都市外交に対する考え方について

市長発言がおよぼす市政への影響について
【山口議員】2月20日、名古屋市を表敬訪問した中国・南京市の代表団に対する「いわゆる南京事件というのはなかったんじゃないか」との市長発言=外国からの公式代表に対する公の場での発言=が波紋を広げています。
 友好都市交流の停止ばかりか、外交問題にまで発展し、市民レベルの交流や経済活動にも深刻な影響を与えています。しかし市長は27日の記者会見でも「30万人もの非武装の中国市民を日本軍が大虐殺したことはないと思っており…申し上げたことは撤回しない」とコメントし、3月2日の本会議でも「発言」の撤回を拒否しています。このままでは事態をますます悪化します。もはや個人の歴史認識の問題では済まされなくなっています。そこでまず3点、河村市長に質問します。
侵略戦争であったとの認識はあるのか
 さて、いわゆる南京事件は、1937年から翌年にかけて日本軍が中国・南京市を攻撃・占領した際に、捕虜や一般住民に対し、戦時国際法と国際人道法に反した不法な残虐行為を行った事件です。
 この事件は、日本の中国への15年に及ぶ侵略戦争の過程で起きました。外務省のホームページには、「日本は、過去の一時期、植民地支配と侵略により、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことを率直に認識し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、戦争を二度と繰り返さず、平和国家としての道を歩んでいく決意です。」とあります。
 こじれてしまった中国・南京市との友好関係を立て直すには、少なくともこの政府見解の認識を共有することがまず必要ではないでしょうか。侵略戦争への認識を封印したままでは、あなたの言う「ノドにささった刺」は抜けません。
 市長、あなたは15年に及んだ日中戦争は、日本の中国への侵略戦争であったとの認識をお持ちですか。端的に答えてください。
この議会で答えるべき質問ではない
【市長】日中戦争についての認識というテーマは、この議会で答えるべき質問ではない。
政府見解に同意しますか
【山口議員】南京事件について市長は「30万人もの虐殺はなかった」と繰り返し発言されています。事件についての政府見解はどうか。あなたの質問主意書に対する政府答弁書では「これまで公になっている文献等から総合的に判断すれば、非戦闘員の殺害又は略奪行為等があったことは否定できない」とあります。
 外務省のホームページには、「南京大虐殺」について「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、多くの非戦闘員の殺害や略奪行為があったことは否定できないと考えています」そのうえで「しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難である」と記載してあります。
 日中政府共同の研究も進められてきましたが、犠牲者の数を正確に算定することは、今となってはまず不可能です。しかし数が特定できないことを理由に虐殺を否定することはできません。
 カンボジアのポルポト政権下の大量虐殺で、犠牲者数を特定できないから、虐殺もなかった、と言う人はいないでしょう。数の特定は研究・調査の対象ではあっても、いま自治体の長が討論すべきテーマではありません。問題は30万の数字の是非ではなく、南京事件の存在を認めるか否かです。
 市長、「南京で多くの非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」との政府見解に同意しますか、イエスかノーかで答えてください。

南京大虐殺に関する政府の公式見解
「これまで公になっている文献等から総合的に判断すれば、非戦闘員の殺害または略奪行為があったことは否定できないと考えている」(2006年6月22日:河村たかし議員の質問主意書に対する答弁書)

 

政府見解と思いはほとんど同じ
【市長】いわゆる戦争ということですので、悲しいことがあったことは認めています。いわゆる南京事件というのは、象徴的にいいますと30万人にも及ぶ非武装の中国市民を大虐殺したという組織的な大虐殺はなかったのではないかと申し上げた。政府見解は、2006年6月22日の質問主意書に対する政府答弁書、これは一番の公式見解です。閣議決定され、「これまで公になっている文献等から総合的に判断すれば、非戦闘員の殺害または略奪行為があったことは否定できないと考えている」ということで、これを見ますと僕の言っていることとほとんど同じではないかという風に思っております。
南京事件を否定する根拠はなにか
【山口議員】あなたは、肉親の経験から「市民の虐殺があったらその8年後にあんなに優しくしてくれるんだろうか」と発言しています。
 ご存じとは思いますが戦争が終わった時、当時の中国政府は、「報怨以徳(ほうえんいとく=怨みに報いるに徳で以ってせよ 論語)」という方針を掲げました。旧敵国の人間に対しても優しく接するように、と国をあげて取り組んだと聞いています。あなたの肉親だけが優しくされたわけではないと思います。
 中国大陸やアジア諸国での日本軍による残虐行為は数えきれないくらい指摘されています。市長は肉親の体験から南京での事件を否定しますが、否定の根拠はそれだけですか?それならあなたの肉親がその場にいなかった他の数々の残虐行為については否定しませんね。答えてください。
安全区の人口が増えた、蒋介石も毛沢東も何も言っていない
【市長】南京事件がなかったとする根拠は、一つは12年12月13日、南京入城17日のちょっと前にセーフティゾーンの人口が調べられており、これが20万人。それから1か月くらいたったところで25万人と増えており、30万人という大虐殺があったらありえないと言われております。よく言われていることでは、蒋介石が300回ほど記者会見やっており、その間に1回も南京大虐殺に触れていません。毛沢東もいっぺんも触れていません。
平和市長会議への加盟を
【山口議員】報復の連鎖を断ち切る。この精神は広島・長崎の被爆者の活動精神でもあります。原爆投下に対し、報復ではなく核兵器の廃絶を訴える姿に、世界の人々は感銘を受けたのです。
 市長は「やられたらやりかえせ」と考えているかもしれませんが、そう考えない人たちが大勢いるのです。いさぎよく発言を撤回し、平和のための前向きの姿勢こそ示すべきです。
 そこで提案です。私は3年前の9月議会で、広島市長が提唱した核兵器廃絶をめざす「平和市長会議」への加盟を求めました。あなたの答弁は「いっぺんよう考えさせてちょうだい」でした。よう考えましたか。
 3年前、平和市長会議に加盟していた政令指定都市は6都市でしたが、現在では19政令都市中なんと18都市が加盟しています。未加盟なのは名古屋市だけです。あなたがぐずぐずしている間に時代は進み、名古屋だけが核兵器廃絶をめざす都市の連帯から取り残されてしまいました。悔しいし、情けない。
 政令市では最後になりましたが、いまからでもおそくありません。市長、平和市長会議に加盟し、積極的な平和のメッセージを名古屋から発信しませんか?答弁を求めます。
加盟のいかんにかかわらず、平和宣言の主旨にもとづき、行政運営を進める
【市長】核兵器のない世界を望むというのは当然です。昭和38年に平和都市宣言が議決されており、その理念の下で行政運営を行っております。今後とも加盟のいかんにかかわらず、平和宣言の主旨にもとづき、行政運営を進めていきたい。議会での議論が進むことを期待しております。
政府答弁を認めるか(再質問)
【山口議員】安全区の人口が増えたというが、南京市の城区だけで100万人負った、日本の爆撃や攻撃が続き、みな逃げて行った、疎開した。安全区で虐殺が起きたが、染料が終わった後人々は戻ってきた。人口が増えるのは当然。なかったという議論にはなりません。いくつか答えていただいたが、小泉首相のときの答弁を出してきたが、政府見解は総合的に判断するなら、非戦闘員の殺害または略奪行為等があったことは否定できない、ということは率直に認めますか。
文脈から言えば同じ趣旨ではないか
【市長】私が言ったことと、「これまで公になっている文献等から総合的に判断すれば、非戦闘員の殺害または略奪行為等があったことは否定できないと考えている」ということなので、松井磐根さん(愛知県出身。南京事件当時の上海派遣軍司令官。上海事件不拡大の方針に反して南京攻略。一部軍人の略奪暴行等は認めたが組織的でなかったと主張)も一定の謝罪をされてますし、こういうことがあったのだろうということでは同じです。ただ違うところは、30万人虐殺ということはなかった、政府見解の中ではそれが入っていない。大きな意味でいえば、この文脈から言えば同じ趣旨ではないかとおもいますが、厳密に言えば分りません。
市長の発言が市の見解か
【山口議員】余計なことは言わなくていい。30万人という数には議論がいろいろある。石原都知事は40万人といっている。どんどん膨らむ問題は非戦闘員への殺害や虐殺行為があったかどうかということで、そこは市長も認めた。ここは一歩前進。問題は、あなたの発言が、公の場で外国の訪問団に対して、市長として公的に発言したからです。
 私は日本共産党の歴史観をあなたに押しつけようとは思わない、日本政府の見解に沿って都市外交を進めよう、と言っているだけです。南京事件についての名古屋市の公式見解を問われたら、河村市長の見解が名古屋市の公式見解だと答えてよろしいのですか。 それとも市長の見解とは別に名古屋市の公式見解があるのか。
市の公式見解はない
【市長】名古屋市の中で南京事件について公式に議論したことはないと聞いております。政府の閣議決定のようなものはない。
発言を撤回すべき
【山口議員】閣議決定のような公式見解がないということは、あなたの発言が文字通り名古屋市の見解として公の場に出ていく。
昨年、民間戦災障害者援護見舞金制度を発足させました。新年度は記録誌も発行する予算も組みました。民間人の戦争犠牲者に対するあなたのこの姿勢を私は率直に評価します。そんなあなただったら、中国大陸やアジア諸国で、民間人が日本軍によってどんな犠牲を強いられたかにも、深く思いが及ぶ、と私は信じたい。でも現状では、その思いは届かず、日本も民間人と中国の民間人とダブルスタンダードにしか聞こえません。
 せっかくの施策の価値も下がってしまいます。市長、素直に事件があったことを認め、発言を撤回すべきではないですか。
議論させてくれと言っているだけ
【市長】議論させてくれと言っているだけだ。
もし30万人の中国の非武装の一般市民を日本人が大虐殺したというのが真実なら許されるものではない。しかしそうでないとしたら、いうことだけ言わせてもらえんか、話し合いだけさせてもらえんかと言ったうえで、今回話しをさせてもらった。今まで言ったことにと変わりはありません。
官民問わず、名古屋と中国との関係発展に水を差し、障害物になっている
【山口議員】率直な意見交換をする前提は日本の侵略戦、そうした行為を率直に認めたうえで、数の議論についてはやることは否定しない。そこが問題。南京と名古屋とが姉妹友好都市になって34年、「形式的な交流」にとどまらず、市民の交流は活発に行われてきました。2006年には、東山動物園のゾウ列車を題材にした合唱団の南京公演も行われました。過去の歴史を正しく認識していれば、日本の戦争被害の物語でも、受け入れられる。トゲは抜けるのです。
 市長の思いは思いとして、ここまで事態が来た以上、勇気を出して、発言は撤回すべきです。
中国との関係は、あなたの歴史認識をこえて、発展しています。名古屋市内への外国人観光客65万人のうちの約4割、27万人が中国からの観光客です。名古屋港の外国貿易、一番の輸出相手国は中国であり、輸入相手国としても中国は第2位の位置です。欧米よりもアジア各国の比重が高まっている。
 港区にある国際留学生会館、利用者の6割は中国から、アジア諸国からの留学生で9割です。本市の留学生支援事業の対象者の8割が中国出身者です。名古屋に良い印象をもって学んでもらおうと、港区では女性会をはじめみんなでる留学生を支援する活動が地道に進められています。市として今年は、留学生を新たに誘致するパンフレットを、英語版に加えて、中国語版も作成する計画とききました。
 新たに開始する「中小企業海外販路開拓支援事業」主な開拓先は中国でありアジア諸国でしょう。あなたの発言が、官民問わず、名古屋と中国との関係発展に水を差し、本市の施策をすすめるうえで大きな障害物になっている。その自覚はありますか。
いろいろ残念なこと
【市長】いろいろ残念なことだとは思いますが、今まで述べてきたことと変わりありません。
侵略戦争への反省を踏まえ、南京市とともに平和市長会議への加盟を
【山口議員】その姿勢が今抜かなければならない日中間の、名古屋と南京の間の「刺」になっている。
 平和市長会議には、世界で5136の都市が加盟、名古屋の姉妹友好都市である、ロサンゼルス、メキシコシティ、シドニー、トリノが既に加盟しています。中国では北京など7都市が加盟していますが、南京市は未加盟です。
 名古屋市が、まず平和市長会議に加盟する。そして過去の侵略戦争への反省を踏まえて、南京市にも平和市長会議への加盟を堂々とよびかける。市長、この道こそ進もうじゃないですか。このことを呼び掛けて質問を終わります。

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