名港議会 山口議員の一般質問④ 水族館(2016年3月28日)
水族館の社会的使命や地域の特性を生かした展示・情報発信を
名古屋水族館の社会的使命はなにか
【山口議員】1992年に開館した名古屋港水族館は今年で24年目を迎えます。年間入館者数200万人を数える市内有数の観光施設であり、親しまれる名古屋港のシンボル的存在でもあります。水族館や動物園はこれまでにも何度かブームがありました。大きな水槽、貴重な生物、行動展示や生態展示などの新しい見せ方にも工夫がこらされてきました。
日本の水族館の運営主体は、民間の会社や公的機関など様々です。市民のレジャーの場であるとともに、博物館や社会教育の機能もあわせもっています。
水族館は、私たちが普段なかなか見ることのできない水中生物の飼育と展示を通して、生命の大切さを伝える場所と言われています。現在では、それに加えて、次の二つの役割がそれぞれの水族館に求められているのではないでしょうか。
一つは、それぞれの地域に特有の生物や生態系、生育環境の展示などを通して、それぞれの地域の自然環境がもつかけがえのない価値に多くの人々に気づいてもらうことです。全国共通の同じような展示だけでなく、地域の個性あふれる水族館になることです。
もう一つは、地域でも地球的規模でも、地球温暖化から水質汚染、生物多様性まで、様々な環境問題についての情報を発信することです。
そして、こうしたテーマを楽しみながら伝えていくためのレジャー性やエンターテーメント性もまた現代の水族館には欠かせない要素です。自分たちの組織の社会的使命をどのように自覚するかは、組織運営の基本です。そこでうかがいます。
名古屋港水族館はどんな社会的使命を果たすのか、名古屋港水族館の特徴、強み、個性とは何か、これまでの歴史と到達点を踏まえて、お答えください。
レクリエーションや教育機会の提供、希少水族の種の保存、水族の研究・保護など
【関連事業担当部長】名古屋港水族館は、水族に関する知識を広め、水族への親しみを深めることにより、住民の自然環境に対する意識の高揚を図るとともに健全な余暇の活用に資することを目的に設立した。果たすべき社会的使命は、①レクリエーションの機会の提供、②教育の場の提供、③希少生物を繁殖ざせるなど種の保存、④水族に関する研究・保護と考える。
レクリエーションと教育は、「マイワシのトルネード」「イルカのパフォーマンス」など視覚的に楽しみながら魚の群れの特徴やイルカの優れた運動能力を学べるイベントに特に力をいれ、また、約200名のボランティア組織を活用し、館内各所で解説を行い、生き物の観察を通してより深く生態を学んでいただけるような体制を整えている。
希少生物を繁殖させる種の保存では、野生生物の多くの種が野生下で個体数を減らしており、展示生物の確保を安定的に行っていくことは大きな課題です。そのため、これまでの繁殖研究実績を踏まえて「種の保存」の観点からイルカ、カメ、ペンギンなどさまざまな生物の「飼育下繁殖研究」を推進しています。
研究・保護は、他の園館で成し遂げていないナンキョクオキアミ、また、ウミガメ類や極地ペンギンの何世代にもわたる繁殖の研究、名古屋港水族館生まれのウミガメを野生に帰す生物保護活動に取り組んでいます。
今後もレクリエーションや教育の機会を提供するとともに希少水族の種の保存、水族の研究・保護に取り組み、社会的使命を果たしていきたい。
伊勢湾の生物・環境を意識した展示を
【山口議員】名古屋港水族館の進む方向性について、地域をキーワードにして、いくつか具体的にうかがいます。
第一に、伊勢湾の生物と環境を意識した展示にも力を入れてはどうか。各地の水族館では、江戸前寿司のネタになる東京湾の豊かな生態系や多摩川流域の河川環境を展示する葛西臨海水族園、伊勢海老がうようよいる鳥羽水族館、世界中のフグを集めた下関水族館、サツキマスと長良川流域の環境を再現したアクア・トトぎふ、など水族館のある地域の特性を踏まえた展示にそれぞれ工夫がこらされています。
名古屋港ではどうでしょうか。伊勢湾とそこに流れ込む木曽三川、この海域のもつ豊かさについてもっと魅力ある展示ができないか、と考えます。
例えばスナメリです。伊勢湾を代表する小型の鯨類です。鳥羽水族館や南知多ビーチランドで会うことができますが、鯨類の展示が売りの名古屋港水族館には残念ながらいません。名古屋港水族館でも見ることができればいいな、とは思いますが簡単ではありませんね。そこでおたずねします。伊勢湾におけるスナメリの生息状況をどう把握しているのか、スナメリを飼育・展示する可能性はあるのか、うかがいます。
例えば干潟です。名古屋市の藤前干潟は都市部に残された貴重な干潟としてラムサール条約にも登録されました。四日市港にも貴重な高松干潟が残されています。一般的な干潟の展示は現在もありますが少し物足りなさを感じます。藤前干潟などこの地域の干潟についてもっと具体的に紹介する考えはありませんか。
また木曽三川に代表される伊勢湾に注ぐ河川についてはどうでしょうか。伊勢湾の豊かさを支える河川の大切さを具体的な生物の展示と河川環境の再現でアピールすることが必要ではないでしょうか。長良川のサツキマス、汽水域の貝類のことなど、川と海をつながりを伊勢湾の豊かさを表すものとしてもっとアピールしてはいかがでしょうか。
もちろん、伊勢湾は海産物の豊富な海としても知られています。エビやシャコなど私たちの食卓をにぎわす海産物資源が、どんな環境で育っているのか、生け簀ではなく水族館でぜひ見てみたいと思うのですが、いかがでしょうか。
希少生物や身近な生物の紹介も重要
【関連事業担当部長】名古屋港水族館南館では、「日本の海」のコーナーで伊勢湾や名古屋港の生物の展示を行っています。
伊勢湾を代表する小型鯨類であるスナメリは、日本では、シロナガスクジラ、ホッキョククジラなどとともに、水産資源保護法施行規則に基づき保護され、特別の許可を得た場合を除き、採捕することは禁止されています。このため現行ではスナメリの捕獲・展示は困難であると考えていますが、現在、館内では過去に緊急保護したスナメリの骨格標本や保護活動時の写裏パネルの展示のほか、個体数調査活動について紹介しています。
名古屋港周辺で採集した干潟に関する生物は、館内ですでに展示していますが、さらに、生物の珍しい行動や生態を来館者が見て頂けるよう、現在、映像を用いた展示について検討を進めています。
伊勢湾を含む日本の河口周辺の汽水域の生物は、トビハゼ、ボラやマハゼ、テナガエビを展示しており、南館のマングローブ水槽では亜熱帯の汽水域を再現した展示となっています。
海産物資源としての水族は、黒潮大水槽でスマ、シイラ、マイワシ、深海コーナーでタカアシガニなどを飼育展示しています。
今後も、希少生物に加え、身近な生物の紹介も重要と考えており、展示の工夫に努めていきたい。
名古屋港の生物と環境のリアルな展示を
【山口議員】名古屋港の生物と環境についてもリアルに展示し、県民市民と一緒に考え、行動する水族館になっていただきたい。
1907年に開港した名古屋港の歴史は、一面では埋立の歴史でもあります。とりわけ1959年の伊勢湾台風後、高度経済成長期に埋立面積は飛躍的に拡大しました。それは一面では公害が広がっていった歴史でもあります。
四日市でも名古屋でも臨海工業地帯の形成は、深刻な大気汚染を発生させ、ぜんそくなどに苦しむ多くの被害者を生み出すことになり、公害病に苦しむ患者は四日市でも名古屋南部でも裁判に訴えて闘いました。住民の粘り強い運動と行政や企業の努力もあり、この地域の環境はそれなりに改善されてきました。四日市市ではこうした公害の歴史をしっかり後世に伝えるための「四日市公害と環境未来館」を昨年開館しました。名古屋港でも、公害の歴史を踏まえ、環境問題に取り組むセンターが必要だと私は考えます。
環境問題の情報発信・市民への啓発活動は、水族館の重要な社会的な使命の一つではないでしょうか。この点をもう少し意識した活動が必要ではないか。もちろん水族館ならではの活動です。
例えば名古屋港の生き物についての展示はどうなっているでしょうか。船にフジツボなどが付いてくる様子は展示されています。名古屋港の水がサンゴ水槽にも使われていることも紹介されています。でも例えば、名古屋港の水面からジャンプする魚について、何という名前で、どうしてジャンプするのか、どこかでわかるでしょうか。中川運河で時々発生する魚の大量死について、水族館サイドからの何らかのアプローチや情報提供はあるのでしょうか。
公害の歴史を踏まえたうえで、たとえば名古屋港の水質がどうなっているか、そこでどんな生物が生息しているのか、を展示・紹介するなど名古屋港の環境=生物の生息環境について、水族館らしい情報発信を行う考えはないか、うかがいます。
名古屋港周辺の生物展示を実施したい
【関連事業担当部長】名古屋港の生物の展示は、生き物たちの小さな生態系を観察できるマイクロアクアリウムで、フジツボ等付着生物の展示を行っています。生物の展示だけではなく、ボランティアスタッフが、その日の名古屋港の水温提示、ミドリイガイなどの外来生物について解説し、来館者に名古屋港の環境を伝える活動をしています。
また、来館者に人気のあるクラゲ類についても極力、そのときに名古屋港で採取されたものを展示するようにしています。
水族館職員は日常的にガーデンふ頭周辺で水族の採集や調査を行っており、今後も名古屋港を中心とした周辺の生物展示を実施します。
近接の水族館とのネットワークの形成を
【山口議員】生物の保護、飼育や繁殖などについての水族館や動物園のネットワークは、専門家のみなさんの力で全国的にできあがっていると思います。この地域で、伊勢湾岸の水族館などの個性的な取り組みをもう少しお互いに紹介し合い、集客にも活かすことはできないでしょうか。
スナメリを例に挙げましたが、名古屋港水族館ですべてが事足るわけではありませんし、何でもかんでも集める巨大な水族館が一か所できればいいわけでもありません。東山動物園の世界のメダカ館もふくめて紹介したいところはたくさんあります。そしてネコギギなど絶滅危惧種が多い小さな淡水魚の生育環境を守るキャンペーンなども共同で推進できるのではないでしょうか。ライバルとして集客を競いあうだけでなく、お互いに紹介し合うなどして、地域の水族館トータルの集客力の向上を図りましょう。
それぞれの水族館の特徴ある展示を紹介するコーナーを設けるとともに、共通の案内マップ(伊勢湾岸の水族館)づくりや、共同の環境保護のキャンペーンを行うなど、この地域の水族館が全体として集客力を高めつつ、伊勢湾をとりまく地域の環境について情報発信するなど、新たな地域ネットワークを積極的に形成してはどうか、と考えますがいかがでしょうか。
積極的に近隣施設と連携し、魅力ある展示を目指し、集客に努めたい
【関連事業担当部長】平成24年に日本動物園水族館協会(JAZA)が主催する「明日へつなぐ日本の自然よみがえれ、日本の希少淡水魚」キャンペーンに名古屋港水族館が賛同し、名古屋港水族館の展示テーマに含まれていない日本産の淡水魚を、近隣の世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふや碧南海浜水族館から借用して、普段みられない生物を展示した実績があります。
また、名古屋港水族館を含む近隣園館の連携では、来館者が各園館を回り用紙に押印するスタンプラリーなどの事業について検討をしています。
今後も、積極的に近隣施設と連携し、魅力ある展示を目指し、集客に努めます。
意識的・計画的な環境問題の情報発信を(再質問)
【山口議員】名古屋港水族館の社会的使命、飼育と展示の現状について、ていねいに紹介していただきました。水族館のみなさんの日常的な努力にあらためて敬意を表します。
環境問題での情報発信という点、伊勢湾・名古屋港というこの地域の生物の生息環境についての展示という点では、物足りなさを覚える答弁でした。オキアミ、サンゴからウミガメ、ベルーが、シャチまで地球温暖化をはじめとする生息環境の変化は種の保存にも大きく影響します。関心を持たざるを得ません。
同時に、環境問題は私たちの足元からきちんと考えていくことが重要です。名古屋港の環境・公害の負の歴史もきちんと伝えながら、そのうえで伊勢湾の海の豊かさについてもきちんとアピールしましょう。「日本の海」と一般化せずにもっと具体的に紹介していただきたいのです。そこで質問します。
名古屋港の公害の歴史も踏まえて、環境問題の情報発信について、もっと意識的・計画的に取り組む必要がありませんか。
水族館内外で環境への意識を高めるような展示手法を研究、発信したい
【関連事業担当部長】名古屋港水族館は、生物の展示をとおして、来館者にさまざまな視点から地球環境について理解していただく展示を行っています。こうした取組みは名古屋港水族館内にとどまらず、久屋大通公園で秋に開かれる「環境デーなごや」のイベントに子ガメを出張展示し、保護活動内容を紹介するなど、環境への理解を深めて頂いています。
今後も名古屋港水族館内外で環境への意識を高めるような展示手法を研究し、こうした観点で県市民への情報発信に努めていきたいと考えています。
伊勢湾、名古屋港、地元の海・河川環境のリアル展示が必要(再質問)
【山口議員】伊勢湾と名古屋港、地元の海や河川の環境=水中生物の生息環境について、藤前干潟などの具体的な地名を入れてもう少しリアルに展示する必要があるのではないですか。答弁を求めます。
映像ビデオの利用など、工夫を凝らした展示手法の検討をしたい
【関連事業担当部長】南館は、平成4年の開館以来「南極への旅」をテーマとし、伊勢湾や名古屋港の生物を含んだ「日本の海」のコーナーを設けています。
今後の伊勢湾、名古屋港、地元の海・河川環境のリアル展示は、映像ビデオの利用など、工夫を凝らした展示手法の検討をします。
長良川河口堰や藤前干潟などの材料を水族館らしく加工し、親しみやすく情報発信を。
伊勢湾全体を展望しスナメリの保護を(意見)
【山口議員】少し前向きに聞こえる答弁をいただいた。具体的な展示方法、PRなどは現場の皆さんの知恵と努力にお任せしたい。
ただ、水族館のありかたについては今後創立25年、30年と節目の年を迎えることになるが、この地域の公的な財団が運営する水族館として何を大切にしていくのか、ということをぜひ考えていただきたい。その際に、この伊勢湾・名古屋港にある水族館だという立地条件を意識してほしい。長良川河口堰、藤前干潟をはじめ環境問題を考える材料がいっぱいあるのがこの地域です。そこを水族館らしく情報も加工して、親しみやすく市民県民に情報発信していただきたい。そのような機能が名古屋港水族館には求められていると思います。ぜひ、その点を意識してこれからの長期ビジョンを検討していっていただきたい。
今日は注文ばかりの質問だったが、現在でも名古屋港水族館の繁殖、飼育や展示、職員の方の、生物も含めたパフォーマンスの能力はたいへん高く評価しているし、今のままでも十分に魅力的です。そのうえで、周りの水族館とのネットワークをしっかり形成して、伊勢湾全体が大きな水族館の共同プールだと、そのような観点でスナメリの保護等にも取り組んでいただきたい。
以上を要望して終わります。
キーワード:環境と防災、まちづくり、山口清明