青木ともこ議員の個人質問 ヘイトスピーチ解消への取り組みを(2016年6月17日)
ヘイトスピーチの解消に向けた取り組みをすすめ、民族差別を許さないまち名古屋を
表現の自由に対する市長の認識
【青木議員】本年5月24日、衆議院本会議において、自民、公明両党が提出しました「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」いわゆる「ヘイトスピーチ対策法」が、民進、共産など賛成多数により、さきの国会で成立しました。特定の民族に対し、いちじるしい侮辱によって脅威を与え、社会からの排除を扇動するヘイトスピーチは、「許されない」と宣言したこの法律は、6月3日をもって施行されました。
この対策法成立に前後して、長年にわたり、在日コリアンに対する、ヘイトスピーチをくり返してきた団体と、元会長である人物およびその関係者が、川崎市や福岡市、そして名古屋市と、各地で集会とデモを計画し、ネット上でも、対策法成立にも関わらず、今までどおり、全国で民族差別行動を続けていくことを宣言しています。
本市では、去る5月29日、当該団体と元会長が、市内の繁華街で集会とデモを計画し、これに抗議する市民が、本市に対し、集会場所である公園の、使用許可取消を求めましたが、応じられず、集会とデモが予定通り行われました。「ヘイトスピーチ対策法」が成立した直後に、名古屋市がヘイトデモを許すかどうか、全国が注目していただけに、多くの市民に失望が広がりました。
このデモが行われた当日、私は市内の現場におもむきました。そこで目にしたのは、特定の民族に対する、むき出しの差別扇動が、拡声器を通して市内の繁華街に響き渡るという、現代の日本社会で、あってはならない光景でした。彼らの言動が、「政治的主張」や「表現の自由」として、許される範囲のものとはおよそ言いがたく、今般、成立した「ヘイトスピーチ対策法」が定義する、「地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」にあたることは明らかです。
翌日、定例記者会見において、河村市長は、デモの団体が街宣車から、「朝鮮学校補助金を減額した市長の姿勢だけは評価できる」と発言したことに対し、感想を求められ、「誉めていただいて、ありがたい」と述べたうえ、依然として「表現の自由」にこだわる姿勢を示されました。「ヘイトスピーチ対策法」が成立した矢先の、市長のこの言葉は、「民族差別団体に同調するかのような発言だ」と、本市だけでなく、全国に波紋を広げました。(記事写真は5/30 中日新聞夕刊)
市長は翌週の記者会見で、「ありがとうに深い意味は無かった」と弁明されましたが、そこで1点、確認したいことがございます。市長は、特定の民族を、「地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」が、表現の自由として許されるとお考えですか。この点について、市長の認識をお聞かせください。
不当な差別的言動は許されない(市長)
【市長】法律に定義があり、地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動と。こういうことになりますと、許されることではないと思っとります。
その後は、検閲の禁止という憲法上重要な問題もありますので、大阪でやられたのは、あれが絶対にええとは申しませんけど、一つの方法だと思っとります。
被害の実態と「ヘイトスピーチ対策法」成立を踏まえた対策
【青木議員】本市に続いて、全国が注目したのは、ヘイトデモが計画されていた川崎市でした。同市は、対策法の成立を受け、集会のための公園使用を申請した団体において「不当な差別的言動を行う恐れがある」と判断し、都市公園条例「公園の管理に支障がある行為」を認めないことを理由に、「使用不許可」を決定しました。のちに神奈川県警が、同団体に対し、道路使用について認めたものの、デモの開始直後、市民の強い抗議を受けて、ヘイトデモはただちに中止となりました。
この度の「ヘイトスピーチ対策法」が成立した道のりには、差別を許さない市民の、粘り強いたたかいがあったこと、そして、ヘイトスピーチという「暴力」に、ひたすら耐えるしかなかった、多くのマイノリティがいたことを、私たちは、心に留めなければなりません。これまで、大阪の鶴橋、東京の新大久保をはじめ、各地で在日コリアンに対する、熾烈なヘイトスピーチが繰り返され、その不当な差別扇動が、「表現の自由」を根拠に、なんら取り締まりを受けることなく、事実上、放置されてきた実態があります。
ヘイトデモの現場で、野放し同然であった、誹謗中傷の数かずが、どのようなものであったか、ここでは再現致しませんが、被害の当事者が、心身ともに、どれほど深刻なダメージを受けてしまうか、その実情の一端に、ここで触れます。
・デモの光景を思い出すだけで、心臓が激しく打ち、呼吸が乱れ、眠れない
・こんな恐ろしい言葉が、どうして許されるのか、ただ怒りと恐怖しかなかった
・自分の子どもたちがもし、ヘイトデモに出くわしたら、ネットで映像やひどい書き込みを見てしまったらと思うと、不安で体が震え、頭が真っ白になり、何も手がつかなくなる
・デモを目にした子どもが、家から出られなくなった。本名を言わなくなり、学校に行けなくなった
・「自分は生きていてはいけないんだ」と思った
皆さん、ヘイトスピーチというものが、絶対に侵してはならない、人の尊厳に向けられた「やいば」であり「暴力」そのものだということが、想像していただけると思います。
ヘイトデモを目の当たりにしたという、ある在日コリアンの女性は、今なお、深い傷の癒えない胸のうちを、こう明かしたそうです。「あの時、私の心は殺されたと同じだ」。私たちは、社会に生きる一員として、ひとりの人間として、人の尊厳をふみにじる、このヘイトスピーチの実態から、目をそむけるわけにはいきません。
法務省の調査では、2012年来、全国で確認されたヘイトデモは実に、のべ1150回を超え、ここ愛知県では、100回の街宣とデモが行われました。私はこれまで、名古屋市で相次ぐ、ヘイトデモの現場に立ち会って来ました。そこには、マイノリティへの侮辱を平然と叫ぶ人びとの行進を見守る警察隊の姿がありました。抗議に駆けつけた市民のなかには、被害の当事者である人びとの姿もありました。「こんな場所に立つのは、今日が最後であってほしい」「差別問題をいつまで市民まかせにするのか」。そんな憤りを、私は何度耳にしたか知れません。
このたび成立した「ヘイトスピーチ対策法」は、罰則や禁止規定のない「理念法」として、実効性についての課題も指摘されますが、多くの市民が待ち望んだ、民族差別の撤廃に向けた、大きな一歩であると言えます。
また、この対策法に先立つ今年1月、大阪市では「ヘイトスピーチ抑止条例」が制定されました。この条例は、市民からヘイトスピーチによる被害の届けがあった場合、学識経験者からなる審査会にはかり、認められた場合に、差別的言動を行った個人や団体名を公表するという「事後対応」ではありますが、全国で初めて、行政が条例制定というかたちで、ヘイトスピーチ対策に踏み出した意義は大きいと言えます。
国が「差別を許さない」立場を明確にしたいま、自治体がヘイトスピーチの解消に向け、覚悟をもって取り組むべき時が来ています。そこで、本市の人権啓発を担う、市民経済局長にうかがいます。
この度のヘイトスピーチ対策法の成立と、川崎市における、部局連携を通じたヘイトデモ「不許可」の判断、および、大阪市の「抑止条例」など、各自治体での対策をふまえて、本市における、ヘイトスピーチの解消に向けた取り組みについて、どのような対策の検討を、どのようなスケジュールで進めていかれるのか、具体的にお示しください。
情報収集し、取り組んでいく
【市民経済局長】「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解に向けた取組の推進に関する法律」では、不当な差別的言動は許されないこととして、啓発などを通じて取り組みを推進することとしております。
市民一人ひとりの人権が尊重され、差別や偏見がない人権感覚にすぐれた「人間性豊かなまち・名古屋」の実現をめざす本市としても、この法律により今後のヘイトスピーチの抑止に効果があるものと認識しています。
これまでの対策は、啓発ポスターを区役所などに掲出してヘイトスピーチに関する相談窓口を案内し、なごや人権啓発センターやそのホームページにおいて、法の周知に努めている。ヘイトスピーチの取り組みを進めるため、市民経済局、観光文化交流局はじめ関係局により庁内連絡会を設置した。
現在、国の具体的な施策が明らかでなく、国から情報を収集するほか、今後は、川崎市、大阪市の調査などに努め、施策の参考にしたいと考えております。
法案成立で国の意思が明確に示されたことを受け、市としても、ヘイトスピーチの解消に向け、相談体制、教育、啓発などにより、不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう取り組んでまいります。
県と市が足並みをそろえて
【青木議員】市民経済局長からは、ヘイトスピーチ対策に向けて、すでに踏み出されたという旨のお答えを頂きました。
先にふれました川崎市では、デモ申請の団体が、過去に差別的言動を行った事実と、「市民の安全と尊厳を守る」という観点から、都市公園条例の「公園の管理に支障がある行為」と判断し、公園使用を「不許可」としました。「ヘイトデモは未然に防いでほしい」というのが、市民の願いです。今後は、川崎市の対応のように、公園管理部署とも連携し、現行条例を駆使して、ヘイトデモの再発に全力で取り組んでいただきますよう、強く要望いたします。
愛知県大村知事は、ヘイトスピーチについて、「特定の人びとの基本的人権を蹂躙する誹謗中傷であり、表現の自由でもなんでもない人権侵害である」と、より毅然とした姿勢を示し、県が管理する施設の使用を許可しない方針を固めています。また、「自治体は差別行為に関与しない義務を負う」と人種差別撤廃条約が掲げるように、自治体が、差別行為に対し、毅然とした態度を示すことは、国際法の理念にもかなうものです。警察庁は、ヘイトスピーチに伴う違法行為に対し、厳正に対処するよう、全国都道府県警に通達しました。
行政のちからで、ヘイトスピーチを包囲していくには、県と市が、足並みをそろえて協力体制を取り合う事が不可欠だと考えます。そこで、市長に再度おたずねします。愛知・名古屋のまちからヘイトスピーチをなくすために、県と市のあいだで、連携・協議を進めてはいかがでしょうか。
県と連携していきたい(市長)
【市長】県と連携していろいろやりたいと思います。
多文化共生のまちを めざして(意見)
【青木議員】市長に再度お答えを頂きました。今後は、ぜひ県と市で足並みをそろえて、ヘイトデモの再発防止に取り組んで頂きたいと、強く要望いたします。
最後になりますが、ヘイトスピーチによって、傷つき、苦しむ人たちを、これ以上増やさない、名古屋のまちは差別を許さない、この立場を芯から貫いていただき、本当の多文化共生のまち名古屋をめざしていただくことを、心から要望しまして、私の質問を終わります。
キーワード:平和と人権、市民生活、青木ともこ