青木ともこ議員の個人質問 いじめ対策(2016年11月29日)
いじめで自ら命を絶つことを繰り返してはならない
青木ともこ 議員
いじめ対策検討会議の報告書は 遺族の願いに応えているか
【青木議員】昨年11月1日、西区の中学1年生が「いじめ」を苦に、自ら命を絶った日から1年余りが過ぎました。改めて亡くなった生徒のご冥福を心からお祈りし、このような悲劇を二度と繰り返してはいけない、その想いをこめて質問します。
この事件は、「いじめ」が疑われる重大事態として、教育委員会の付属機関「名古屋市いじめ対策検討会議」により、昨年11月以来、9カ月余りに渡って調査が行われ、今年9月、その検証報告がまとめられました。
この報告書について、いくつかの角度から、疑問に感じた点も含め、検証の内容にふれて行きたいと思います。
この報告書は、中学生の自死は、学校における「いじめ」がその要因のひとつとは認定しました。亡くなった生徒は「学校や部活でいじめが多かった。もうたえきれない」と遺書のなかで訴えましたが、報告書は生徒が苦痛を感じていたことは明らかとしつつ「生徒に対するいじめ行為は、一つずつを見るならば、必ずしも重大なものというわけではないかもしれない」とも示唆しています。
報告書を受け取った遺族は、報道取材のなかで、次のような感想を寄せました。「調査に期待もしていましたが、死につながるようなひどいいじめは見当たらない、というものでした。足のすくむ恐ろしさを押してまで死に向かわせた理由を知りたくてなりません」
私は遺族の言葉にふれて、率直にこう思いました。この報告書が「真相を知りたい」という遺族の願いに応えているだろうかと。
そこで、教育長にうかがいます。このたびの検証報告書に寄せられた遺族の言葉をどのように受け止めておられますか。お聞かせください。
このようなことを二度と繰り返してはいけないという決意を新たにした(教育長)
【教育長】今年9月に公表した報告書は、名古屋市いじめ対策検討会議の委員の皆さんが関係者に直接聞き取りを行い、計15回にわたる会議を重ね、できる限り事実を明らかにしたものです。
ご遺族には、会議の開催ごとに調査の進捗状況について説明し、ご理解をいただいてきました。
ご遺族のコメントやお会いした際も、最愛の家族を失った遺族の悲しみは胸に迫るものがございました。このようなことを二度と繰り返してはいけないという決意を新たにしたところです。
「見えにくいいじめ」への対応の あり方のこれまでと今後は
【青木議員】西区の事件について検討委員会は、いじめが「見えにくかった」と検証の難しさを振り返りました。それは、「生徒に対するいじめ行為は、一つずつを見るならば、必ずしも重大なものというわけではないかもしれない」、この表現に集約されています。それだけに、一見、重大に思えないような「いじめ」にどうやって気づけるか。学校現場では、子どもと教員が向き合って、ゆったりと細やかにつながることが一層求められます。
子ども理解を基本に、学校が一体で取り組まなければ、「見えにくいいじめ」を再び見逃すことになりかねません。亡くなった生徒の学校では、担任を含む学校全体として、クラスや部活動での「いじめ」の実態把握と情報共有が不十分で、問題の深刻さに気づく体制がとれていなかったと、報告書は指摘していますが、「見えにくいいじめ」にどうやって気づけるか、対応が学校任せになってはいませんでしたか。
「見えにくいいじめ」への対応のあり方について、教育委員会のこれまでの取り組み、そして、この報告書の検証と指摘を受けて、今後取り組む施策について、具体的にお示しください。
「点検活動表」を全教職員に配布し、対応策を検討。体制の充実に努めたい(教育長)
【教育長】今回の報告書を受け、「提言を踏まえた点検活動表」を全教職員に配布し、市内全校において自校の取り組みポイントを洗い出し、対応策の検討を行いました。
学校生活アンケートの2回実施による効果的な活用を進めるとともに、子ども応援委員会をはじめとする専門職と連携した体制の充実に努めたい。
部活動をどのように改善するのか
【青木議員】「いじめが見えにくい」という点では、2013年南区で起きた中学生の転落死事件に同じく、西区の「いじめ」の場も部活でした。
報告書によれば、亡くなった生徒は部活の競技が好きで真面目かつ熱心でしたが、部活では、成績が芳しくなかった生徒に対する悪口があったうえ、勝ち負けや成績に関わる嘲笑的な言葉が、この生徒に対してだけでなく、日常的に飛び交っていたようです。当時、部員のあいだには亡くなった生徒が深刻に受け止めていたという意識がなかったこと、また、顧問により練習や部員生徒の様子に十分な目が届いていなかった点も背景として指摘されました。
そこでおたずねします。部活動のあり方について、教育委員会としてこれまでどのような通達で、学校現場を指導してきましたか。併せて、検証報告書の指摘を受けて、今後どのように改善していくのかお示しください。
リーフレットを配布・周知し、人間関係に留意した指導の徹底を求めた(教育長)
【教育長】部活動については、これまでも、学校、保護者あてにリーフレットを配布し周知してきたところですが、今回の事案を受け、子どもが劣等感を抱くことのないよう、人間関係に留意した指導を徹底するよう各学校に求めたところです。
有効な施策である少人数学級に向けた努力は
【青木議員】子どもたちの「SOS」を見逃さないために、学校現場はどんな体制でのぞむべきでしょう。
この報告書は、いじめの再発防止に向けた提言の第1項に、「子どもたちを多くの目できめ細かく見守るという点では、1人の教師が担任する児童生徒数を少なくすること、すなわち少人数学級も有効な施策である」と述べたうえで、「名古屋市がこれら人的配置の充実を図ってきていることには理解と評価ができるものの、学校現場の実態と要望を比較してみる限り、まだまだ十分というには程遠い水準である」と、かなり踏みこんだきびしい指摘をしています。
南区の報告書でも、「本市並びに教育委員会は、教師が生徒と向き合う時間を確保し、生徒たちの学習・生活両面の成長を図る視点から、中学校2年生の35人学級編制を早期に実現できるよう最大限努力すべきである。また、学校状況に応じて、きめ細やかな指導体制がとれるような加配の仕組みも必要である」と具体的な提言を行っていました。
この2つの提言でも指摘されていますが、「中学校2年生の35人学級の早期実現」に向けてどのような努力が行われたのか、きめ細やかな指導体制という点では、どのような仕組みをとられてきたのかおたずねします。また、教育長は、「学校現場の実態と要望を比較してみる限り、まだまだ十分というには程遠い水準である」という認識をお持ちですか。
常勤講師や発達障害対応支援員等を配置した(教育長)
【教育長】35人学級の中学校2年生への拡大は、財源の確保や教育環境の整備などの課題があります。こうした中、きめ細やかな指導体制をとるための支援策として、子ども応援委員会を設置し、専門職であるスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの増員を図ってきた。教職員の増員をして欲しいという学校現場の要望に対しては、非常勤講師や発達障害対応支援員等の配置に努めてきた。
県費負担教職員の権限移譲を機に 教員増を
【青木議員】この報告書では、少人数学級の実現など人的体制の充実を求めたうえで、「子ども応援委員会」の積極的な活用が望まれると述べています。
子どもたちを見守る多様で専門的な目は必要です。また、いじめへの気づきの手段として、ハイパーQUテストもあるでしょう。しかし、子どもたちと直接関わり、学びと育ちを毎日支えているのは、担任の教員です。この教員のちからが十分に発揮されてこそ、いじめ防止のさまざまな取り組みが活かされるのではないでしょうか。
今年はいじめ対策法の施行3年にあたり、見直しの提言が先日まとめられましたが、そのなかで教職員の日常業務の膨大さが指摘され、対応として教職員定数の改善や部活動の休養日の設定など負担軽減を図るなかで、いじめへの対応を最優先に位置づけることとしています。
本市の学校現場はどうでしょうか。昨年度の調べでは、市内中学校の全教職員のうち、時間外の在校時間、すなわち時間外勤務が月80時間を超えた教員は、実に44%以上です。80時間はいわゆる「過労死ライン」と国が定める通り、一刻も放置できない状態です。
いま、行政に求められているのは、学校現場の多忙化を早急に改善し、教員が子どもたちにしっかりと向き合える環境を整えることです。来年からは、教職員の県費負担が名古屋市に権限移譲されます。この機会に、教員の多忙化解消の抜本的な対策として、教員の増員に向けた具体的な方策を示すべきです。
教員定数の拡大を国に求めていきたい(教育長)
【教育長】多忙化対策の一つして、権限移譲を契機に、教員定数の拡大を国に求めたい。
「いじめは悪い」と伝える指導を
【青木議員】子どもたちが「いじめ」の加害者となる時の対応について、報告書は提言の中で、「子どもたちは『いじめは悪い』ということは理解していても、現実の行為をいじめと認識せずにしてしまっていることがある」と指摘し、「子どもたちが自ら日常での気づきや配慮ができるようにするための指導の充実を図ることが求められる」としています。
また、いじめ対策法の見直し提言でも、いじめが重大な人権侵害に当たり、決して許されないことを児童生徒に理解させるために、具体的な事例をもとに児童生徒にいじめの問題を自ら考えることをうながすといった、実践的な取り組みの方向が示されました。
教育評論家の尾木直樹氏は、西区の事件を受けたシンポジウムにおいて、次のように強調しました。「自殺する子が出たら、ほとんどの学校でなされるのが『命を大切に』という教育です。これは、亡くなった子を責めることです。反省すべきなのは、『自分はこんなに愛されているんだ』と、愛が伝わるようなことを子どもたちにやれて来なかった、学校や私たち地域社会です」
この指摘に私は共感します。そして、亡くなった子どもたちがなぜ追い込まれたのか、原因となった「いじめ」がいのちまで奪ってしまうということに、正面から向き合う必要があります。加害者となることは、相手を傷つけ自分も苦しむことになります。
子どもたちの気づきと立ち直りを支えるには、いじめ克服の具体的な事例をとりあげた副教材を用意することも必要です。すべての子どもたちがいじめ問題と向き合い、自ら解決してゆくちからを育むために、教員と学校が、そして大人と社会全体が、知恵とちからを尽くして、子どもたちのいのちを守りぬく覚悟をもたなければなりません。
「いじめは悪い」ということを子どもたちに伝える指導について、教育委員会はこれまでどのように取り組み、また、この提言をふまえて、今後どのような施策を推進していくのか、具体的にお示しください。
小グループでの話し合い活動などの授業展開例を示す(教育長)
【教育長】教育委員会では「ING(いじめのない学校づくり)キャンペーン」や「学校における仲間づくり推進事業」等を実施し、自他を大切にする心の育成を図っている。今後は、道徳や特別活動の授業において、いじめをより身近な問題としてとらえさせることができるよう、ロールプレイングや小グループでの話し合い活動を入れた授業展開例を各学校に示し、いじめを未然に防ぐ取り組みの充実を図ります。
学校現場の教員体制が不十分との 認識か(再質問)
【青木議員】遺族の言葉の受け止めについて、教育長は、報告書が出来る限り事実を明らかにしたものであり、調査の過程で遺族の理解も得てきたとおっしゃいましたが、それをもってしても、このたびの遺族の言葉にふれると、真相の解明には検証が及ばなかったのではないかと、私は思います。教育長の新たな決意もお聞きしましたが、検証のあり方については今後の課題として、考えていただくことを要望いたします。
また、「見えにくいいじめ」への対応については、報告書を受け「提言を踏まえた点検活動表」を全教職員に配布し、また、学校生活アンケート、つまりハイパーQUテストの2回実施で効果的な活用をめざすとのお答えでしたが、いじめを発見するシステムばかりが目立ちます。実際システムへの偏りに、現場の教員から疑問の声があがっていると聞いております。「見えにくいいじめ」に気づく体制として、点検表やアンケートを活かすうえでも、教員が子どもたちの変化にすぐさま対応できる環境が求められています。そこで、再度おたずねします。
中学2年生の35人学級の早期実現と教員の増員について、西区の事件の報告書が指摘した「学校現場の実態と要望を比較してみる限り、まだまだ十分というにはほど遠い水準である」との認識があるかをうかがいましたが、お答えは「教員数を増員して欲しいという学校現場の要望に対しましては、非常勤講師や発達障害対応支援員等の配置に努めてきた」というものでした。これは、学校現場の教員体制が不十分であると認めたうえでの対応と理解してよろしいですか。
さらなる教員増の声はある(教育長)
【教育長】これまでも、学校現場の要望に応え教員配置に努めてきたが、さらなる教員増員の声があることは認識しています。
35人学級の中学2年生への拡大も 視野に入れているのか
【青木議員】少人数学級については、財源の課題があるとのお答えでした。これは納得ができません。財源を理由に、子どもの自殺という事実を前にして、再発防止の提言で2度に渡る重要な指摘である少人数学級を後回しにしていいのですか。2度と悲劇を繰り返してはならないという教育委員会の覚悟が、失礼を承知で申しあげますが、この答弁には読み取れません。
子ども応援委員会の職員増を否定することではありませんが、学校は、教員とスクールカウンセラーたち専門家との両輪あればこそです。なごや子ども条例の安心安全に生きる権利、生きることが守られるための最善の方策をとることが本市の責務とされています。財源問題とはレベルが違う問題ではありませんか。
先日は、少人数学級の質問に対して教育長は、「拡大も視野に入れて研究したい」と答弁されていますので、35人学級の中学2年生への拡大についても視野に入れているということでよいですか。
拡大も視野に入れ他都市の状況を 研究していきたい(教育長)
【教育長】少人数学級は、他都市の状況や実施方法について、拡大も視野に入れ研究してまいりたい。
子どもが大切にされる社会は大人も大切にされる社会(意見)
【青木議員】研究を進めるうえで、子どもたちが安心安全に生きる権利が守られることは、コストに代えられないということを、いつでも念頭に置いていただき、いじめ問題の再発防止に向けて、最善の手だてを尽くして頂きたいと思います。そして、子どもが大切にされる社会は、大人も大切にされる社会です。教員が人間らしくゆとりをもって働ける環境でこそ、子どもたちの健やかな成長を支えることができます。教員の多忙化、見えにくいいじめ、部活動のあり方など、課題はたくさんありますが、これは西区の事件にとどまらない、全市的な問題としてとらえていく、その立場で取り組んでいただくことを強く要望しまして、質問を終わります。
キーワード:子どもと教育、平和と人権、市民生活、青木ともこ