2020年11月議会

岡田ゆき子議員の議案外質問:市民病院の大学病院への統合は立ち止まれ(2020年11月27日 11月定例会)

名古屋市立病院を市立大学病院にすることについて     岡田ゆき子議員

コロナ対策で体制確保や経営努力も限界、なぜ大学病院化を性急に行うのか
【岡田議員】新型コロナウイルス感染拡大の第3波は、予想以上に市内全域に拡大しており、第2波のピーク時を超える水準となっています。とりわけ、重篤化しやすい高齢者施設のクラスター発生で入院治療を担う医療機関の需要は高くなっており、保健所が感染者の入院先探しに大変苦慮しているように、患者受け入れ病床数はひっ迫している状態です。患者受け入れ体制の拡充は喫緊の問題です。民間医療機関は最大限の努力で受け入れ病床を増やしていますが、感染症患者に対応する医師、看護師、事務職員等の体制確保や経営努力も限界にあります。

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 名古屋市保健所と市立病院は、名古屋市の感染症対策、公衆衛生行政を進める主軸であり、民間医療機関とも連携しながら、事態の急変に「臨機応変」に対応することが常に求められています。
コロナ対応に組織として最大限立ち向かうべき時に、来年4月に東部、西部医療センターを廃止し、名古屋市立大学病院化する議案が出されました。大きな方針転換であるにもかかわらず、パブリックコメントなど市民意見を聞く場もないままの条例改正案であり、民主的な手続きとは言えない進め方で、市民不在の重大な問題です。
 市大病院化の議論は、コロナ発生前の方針であり、1波2波以上に、第3波が急速に広がっている中、名古屋市は国、県、保健所と連携し感染対策に集中する時ではないか。
 市立病院がコロナ対策に最大限の力を集中すべき時に、組織改編や職員の士気にかかわる労働条件の変更をなぜ、性急に行わなければならないのですか。市大病院化は一旦立ち止まるべきだと考えますが、伊東副市長にお聞きします。

(参考)
地域の医療機関との意見交換時における主な意見
・地域密着型の医療を提供している病院を、なぜ大学病院化するのか。
・1つの区の中で全ての医療機能を整備するのではなく、地域医療構想に基き、医療圏の中で、病院の医療機能の分担していくべきである。
・高齢者医療や、認知症等の研究などに取り組むとの説明だが、国立長寿医療研究センターと同じであり、違和感がある。
・臨床研究や人材育成は専門性が高いが、なぜそれらを大学病院ではなく、大学病院化した市中病院でやるのか。
・認知症患者を積極的に受け入れていくと職員も必要となり、人件費がかかるなど収支が合わず、とても経営してしいけない。

議会等での議論で、早く、という期待があったから(副市長)
【伊東副市長】大学病院化は、今後さらに厳しくなる医療情勢に的確に対応していくための出発点であり、可能な限り速やかに行うことが、市民の皆様の利益に適う。
 8月24日の所管事務調査における議論やその後の市長からの指示も踏まえ、市立病院として、「さらに早く」という期待に応えていくため、令和3年4月の統合に向けて全力で準備を進めている。
 感染症発生時の対応は公的医療機関の責務であり、大学病院化後も、東部医療センターは引き続き第二種感染症指定医療機関としての役割を果たす。
 新型コロナウイルス対応をはじめとする感染症への対応は3病院がさらに連携して取り組んでいきたい。

大学病院への運営費交付金の算定は 市民病院の繰入金と同じ考えか
【岡田議員】東部医療センターは特に、その沿革にあるように、伝染病院として始まり、50年以上前には、最大250床の伝染病床を持つ総合病院であった歴史を持っています。1999年には感染症ベッド10床の第2種感染症指定医療機関の指定を受け、第2日赤とともに市内の感染症対応医療機関の中心的役割と責任を持つ市立病院です。現状ではコロナの拡大において、患者受け入れは2月当初の10床から現在32床まで増床しており、今後も、市立病院として感染症患者の受け入れの拡大は求められていると思います。
 名古屋市病院事業の設置に関する条例の2条には、病院事業の経営の基本を「住民の医療需要に応じて、適切な医療の給付を行い、もって住民の福祉の増進を図る」こととされ、経済的困難な方や時に身元不明の方の救急搬送の受け入れもあり、医療の最後の砦としてこたえていく責任と役割があります。救急医療、周産期医療など不採算と言われる医療は、住民に必要な医療であり、その需要にこたえるために、総務省が示す、一般会計からの繰り入れ基準をもとに、施設整備を除いても毎年年間40億円余投入し、財政的に支える仕組みがあるのです。
 市大病院化以降の運営費交付金は、総務省の繰出基準に基づいて、同様に算定していくのですか。

予算編成の中で具体的に協議していくが役割は変わらない(局長)
【病院局長】来年度以降の運営費交付金の算定は、今後の予算編成の中で具体的に協議していく。大学病院化後も、これまでの公的役割が変わるものではない。

中期目標・中期計画の中で市立病院としての役割は反映されているのか
【岡田議員】名古屋市が中期目標として掲げているのは、「高度かつ先進的で、高い技術を要する医療に積極的に取り組み、安心安全で最高水準の開かれた医療を提供」し、「新しい医療を創出する研究中核拠点」であり、一方、市立病院は、「住民の医療需要に応じて、適切な医療の給付を行い、もって住民の福祉の増進を図る」ことを基本としています。つまり、市大病院と市立病院は、その役割は違うものです。
 病院化後の東部、西部医療センターの役割は、市大の中期目標、中期計画にどのように反映されるのか、変わるのか。

(参考)名古屋市病院事業の設置等に関する条例
(経営の基本)
第2条 病院事業は、住民の医療需要に応じて適切な医療の給付を行ない、もって住民の福祉の増進を図るとともに、常に企業の経済性を発揮するように経営するものとする。

 

(参考)「公立大学法人名古屋市立大学第三期中期目標(2020年4月改訂版)」より
第 5 附属病院に関する目標
1 高度かつ先進的で、高い技術を要する医療に積極的に取り組み、安全安心で最高水準の開かれた医療を提供するとともに、新しい医療を創出する研究中核拠点として、大学病院が果たすべき機能を追求する。
2 救急医療及び災害医療の拠点として、市民の命を守るための機能を強化する。
3 名古屋市が設置する医療機関を始め、地域の医療機関等と相互協力関係を強化し、地域包括ケアシステムの構築に寄与するなど、地域住民の要請に応えられる医療を提供し、在宅医療・介護連携及び保健医療の推進にも貢献する。
4 日々進化する医療に対応できる高い倫理観と優れた技術・見識を有する医療人を育成する。
5 病院長のマネジメントのもと、病院の経営改善を継続するとともに、将来的な収支バランスを勘案しながら機能強化を図ることにより、健全で安定的な経営に取り組む。

 

(参考)「名古屋市総合計画2023」より
施策4 適切な医療を受けられる体制を整えます
①救急医療体制の充実
 休日・夜間などでも必要な医療サービスを受けられるよう、救急医療体制(第一次、第二次、第三次)の充実をはかります。特に、市立大学病院において救命救急センターとしての機能を強化するとともに、救急科専門医の育成を進めます。また、第二次、第三次救急医療機関の軽症患者集中による負担を軽減するため、「かかりつけ医※」を持つことの普及啓発を行い、医療機関の適正受診を促進します。
②市立病院における医療機能の強化
 救急医療、小児・周産期医療、災害・感染症医療の充実・強化につとめるとともに、がん、心臓血管疾患、脳血管疾患、脊椎疾患にかかる医療機能を強化します。また、東部医療センター・ 部医療センターにおいては、地域医療支援病院として、地域の医療機関と緊密な連携をはかるなど、市 に信頼され、安 して受診できる医療を提供します。さらには、市立大学病院と市立病院の連携を強化し、医療機能のさらなる充実をはかります。
③最先端の医療の提供
 市立大学病院において、すぐれた見識と技能を持つ医療人を育成するとともに、認知症や発達障害など社会的関心の高い先進的な研究を推進し、最先端の医療や急性期の医療を担う特定機能病院としての役割を果たします。 部医療センターの陽子線治療センターにおいては、患者の症状などに基づき適切な治療方法を検討するキャンサーボードを行い、生活の質にすぐれた最先端のがん治療法を提供します。

基本方針は同じ方向を目指している(局長)
【総務局長】地方独立行政法人法で、「設立団体の長は、地方独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標である中期目標を、議会の議決を経て定め、法人へ指示するとともに公表しなければならない」とされている。また、「法人は、当該中期目標を達成するための計画として、中期計画を作成し、設立団体の長の認可を受けなければならない」とされている。
 2023年度を目標期間とする名古屋市立大学第三期中期目標では、附属病院に関する目標のひとつとして、「地域住民の要請に応えられる医療を提供」することを掲げている。
 したがって、市大病院の中期目標と、市立病院の「住民の医療需要に応じて、適切な医療の給付を行う」という経営の基本方針は同じ方向を目指している。
 一方、現在の中期計画では、東部・西部医療センターの市立大学病院化に伴う数値目標の設定や収支計画の変更などを行う必要があり、年度内認可に向け市立大学が検討している。

大幅に給与待遇等が変わる医師など、職員確保はすすんでいるのか
【岡田議員】今回の市大病院化に対し、市民意見は厳しいものです。特に医療関係者からはコロナ禍で通常の医療提供さえ困難な中ですので、「同業種として胸がいたい」といいます。「コロナ禍でどの病院も疲弊している。今市立病院が力を入れなければならないのは、コロナ禍の医療体制をどう守っていくかに尽きるのではないか。」「このコロナ禍で働く職員の士気にもかかわるような、労働条件の変更を伴う大規模な組織再編をするのか」このように考えるのが医療従事者の率直な意見です。
 今年の2月定例会の予算審議では、附属病院化について病院局は、「医師の処遇については・・・モチベーションを考慮して・・・検討していく」と答えていました。今年7月時点で職員は、2022年4月に市大病院化の予定だと説明を受けています。
 ところが、8月24日の所管事務調査から、来年4月に市大病院化する方向が急浮上しました。私は、コロナ禍で医師、看護師などすべての医療従事者が、最大限の緊張の中で頑張っている、その時に、報酬も含め労働条件が大きく変わるような、違う組織との統合を強引に進めれば、職員の士気・モチベーションに多大な影響を及ぼしかねない重大な問題だと指摘しました。
 職員へは、8月の所管事務調査以後、スケジュールを訂正して意向調査を実施しているとお聞きしていますが、来年度以降も、働く意思あると確認されている職員はどれだけですか。また、給与が最も変動する医師について、来年度以降働く意思を明らかにしている医師はどのくらいいるのですか。

医師以外は約7割が移行確認しているが、医師確保は各病院で行う(局長)
【病院局長】医師以外の職員には、10月末時点で概ね7割程度の職員が来年度以降も東部・西部医療センターで派遣職員または法人職員として働く意向を確認している。9月以降、各職場で大学病院化後の処遇について説明を実施し、段々と理解が進んでいる。まだ決めかねている職員等に対して、大学病院化後も処遇の差異はほとんどないということも含め、各職場で個別に、丁寧に説明し、処遇の詳細についての説明会も実施し、理解を求めていく。
 医師は全て法人職員に身分切替となり、原則として教育職給料表を適用するが、医療職給料表も経過措置として選択できる予定です。これまで医師に対しても、複数回の説明会を開催してきたが、今後は、身分や勤務条件の個別具体的な各論に入っていくので、大学の各診療科が東部・西部医療センターの所属医師へ説明を行い、確保に努める。

名市大の定款を変更して、法人や職員が関与せず理事長を市長の任命にする理由は
【岡田議員】大学定款の一部変更について総務局長にお聞きします。これまで、「理事長は法人の申し出に基づき市長が行う」とし、「理事長は学長」と定めていました。ところが、改定案では、理事長と学長を分離し、学長は法人内の選考会議で選考することになりますが、理事長は市長の任命にゆだねる。大学法人の代表の選考過程において、法人や教職員が関与しない仕組みを新たにつくるというものです。
 なぜ、理事長を法人選考会議から外し、市長任命としたのですか。
 経営に関わる理事長の選考に法人が関与しない仕組みでは、市長の政治的介入によって、その自治が妨げられることになるのではないか、行政から独立して大学自治が堅持されることは、憲法23条の学問の自由にかかわることで、重大な問題ではありませんか。その認識はありますか。

他都市の半数が理事長と学長を別に任命している。1800床の巨大病院となり法人でのウエイトが高まり経営責任が問われる(局長)
【総務局長】地方独立行政法人法は、「公立大学法人の理事長は、当該公立大学法人が設置する大学の学長となる」とされ、「定款で定める場合には、学長を理事長と別に任命することができる」とされている。全国75公立大学法人のうち約半数の36法人は理事長と学長を別に任命し、「名古屋市立大学」と同様に医学部を含む複数学部を有する「横浜市立大学」や「大阪市立大学」も、理事長と学長が別に任命されている。
 東部・西部医療センターの市立大学病院化で、病床数が800床から3病院あわせて約1,800床の国公立大学病院では全国最大の大学病院群となるなど、法人の規模や法人を運営する理事長の責務が大きくなる。病院部門のウエイトが大きくなって経営の要素が非常に大きくなり、経営と教学の役割分担や責任の明確化を図る必要から、理事長と学長を別に任命することにした。
 この場合、地方独立行政法人法に基づき、理事長は、設立団体の長が任命することになる。教学を担う学長は、地方独立行政法大法で法人に設置される選考機関の選考に基づいて理事長が任命することになるので、法の規定に基づき手続きが進められることで大学の自治が尊重される。

大学病院と市立病院での目標は明らかに違う。高度医療に特化してしまっていいのか。市民の期待に応えられるのか(再質問)
【岡田議員】お互いに違う組織が統合するということでそれぞれに目標があり、中期目標について局長は「市大病院の中期目標と、市立病院の経営の基本は同じ方向を目指している」といわれましたが、中期目標は局長が抜き出したところだけでなく、その前後の文章を見ればはっきり違うことが分かります。
 中期目標は「名古屋市が設置する医療機関をはじめ、地域の医療機関等と総合協力関係を強化し、地域包括ケアシステムに寄与する等、地域住民の要請にこたえられる医療を提供し」。つまり、地域の医療機関と連携して、要請にこたえていくと言っている。市立病院は、条例にある通りで、事業として「住民の医療の需要に応じて適切な医療を給付する」。住民が必要とする医療の需要にこたえるということで、目標が明確に違うということを指摘しておきます。
 10月27日に、郡学長と中日新聞社長との対談が掲載されていました。そこで、中日新聞社長が「昨今では、大学病院が身近な市民病院として気軽に診てもらえるような場所ではなくなっているといわれ、かかりつけ医と高度医療が分かれれば大学病院はより専門的な医療に特化することが可能になるのではないですか」と聞かれ、これに学長は「同感です」と答えている。大学病院はより先進的で高度専門的な治療に特化する、もちろん否定するものではありません。しかし、統合で、2つの市立病院が、経営の基本にある「需要に応じて給付する」この基本が将来にわたっても堅持されると理解していいですか。総務局に聞きます。

大学病院化後もそれぞれの役割は維持される(局長)
【総務局長】市立大学第三期中期目標で附属病院の目標として掲げている、「地域住民の要請に応えられる医療を提供」することと、市立病院の「住民の医療需要に応じて、適切な医療の給付を行う」という経営の基本方針は、同じ方向を目指しているものだ。
 大学病院化は、3病院がそれぞれの役割を果たしつつ、かつ、一体的に運営することで、より適正な医師等の配置や、市民の医療ニーズに応じた、より的確かつ最高水準の医療を継続的に提供することなどを目的としており、大学病院化後も、それぞれの役割は維持される。

コロナ対策に集中し、拙速な統合をやっている場合ではない(再質問)
【岡田議員】いまの市立病院のありようがそのまま堅持されるということは、今後の運営交付金がどのように算定されるかにも影響されるので注視したい。
 問題はコロナ禍でなぜ性急にやらなければいけないかということです。第3波に入り、特に11月以降は2週間で感染者は2倍を超えており、実際に入院可能ベッド数は、計画では300床といっていますが、いま限界で約150床までしか受け入れができないといい、満床が続いています。民間医療機関は自身の経営問題も抱え、職員確保ができない等、今後の病床確保はままならない状況です。民間医療機関からは市立病院の感染症病床拡大にほんとうに期待しており、要請は相当あるわけで、これに市はこたえていかないといけない。そのような時に、組織の改編を進めることは、コロナ対応の障害にならないのかと聞きましたが、全くこたえられていない。コロナで職員の大変なストレスの中、名古屋市だけ、来年4月の統合、組織の改編に向けて、職員個々には意向確認と処遇の説明をし、中期計画の策定を待っての認可等手続きをしなければいけない、このことが、コロナ対応に影響を与えていないか、拙速な統合をやっている場合ではないのではないか。

大学病院化はコロナ対策にも応えていく施策(副市長)
【副市長】新型コロナウイルス感染症がこれまで以上に広がっており、市立病院の職員は日夜、患者の皆様へ献身的かつ真撃に対応をしている。
 大学病院化は、新型コロナウイルス対策を含めた医療需要に的確に応えていくための施策でもある。早期に実施して、同一法人のもと3病院がさらに連携して取り組みたい。

コロナ対応の障害になりかねない。誰もが納得できるように(意見)
【岡田議員】コロナ禍は日を追うごとに深刻な事態で、市のコロナ対策本部会議にも、現在は病院局長が加わり議論されている。直営の病院が市の組織にあることの強みであるのに、住民の医療需要(コロナ)にこたえるという、経営の基本が大学病院化でどうなっていくのか、中期計画に市立病院の役割が反映されるものができるのかも、わからない。
 医師以外の職員の意向はこの時期において、約3割が決めかねているし、医師においては、今後確保に努めるというまでの答弁でした。
 性急に事を進めていることが、こうした事態を生んでいるし、コロナ対応の障害になりはしないか、住民の利益にかなうというなら、来年4月の統合をまずストップすべき。民主的でだれもが納得できる手続きに切り替えるべきです。この後は委員会の審議の場に移し、質問を終わります。

参考:「大学の自治」にかんする日本共産党の見解

○大学における教育研究をはじめ財務・人事・組織などの運営、学長の選考などは、教授会の審議を基礎にし、すべての教員・職員・学生・院生など大学構成員の意思を尊重して決定すべきです。
○大学は、国からの干渉をうけずに自由な教育・研究を行うために、「大学の自治」が保障されています。その土台をなすのが、学問研究と学生の教育にあたる教員が自ら大学運営に参加する制度です。法案は、この制度を骨抜きにし、トップにたつ学長が独断で運営するしくみを確立するものです。憲法第23条の「学問の自由」を脅かす悪法であり、断じて認めることはできません。
○わが国の大学では、「大学の自治」を形成するなかで、学長は選挙で選ぶという民主主義の制度が根づいてきました。国立大学では、大学の評議会(学長、学部長などで構成)が選挙結果にもとづいて学長を選んでいたのを、2004年の法人化によって、学外者が参加する各大学の学長選考会議が学長を選ぶしくみにされました。そのもとでも多くの大学では選挙で1位の人を学長に選んでいます。今回の国立大学法人法改悪案は、学長選考会議が「各大学のミッション(使命・任務)にそった学長像」などの“基準”を定めて選考するとしています。教職員の選挙で支持をえたか否かよりも、この“基準”に合うかどうかで学長を決めることになります。これは学長選挙を形骸化し、無力化するものです。教職員が学長になってほしい人は学長になれず、なってほしくない人が学長になる、民主主義のない大学になります。
○大学は多様な見識や価値観が存在するからこそ「学問の府」といわれます。そうした多様な立場からの意見のなかで、全学的な合意を形成する能力・資質こそが、学長に求められるリーダーシップです。
○学長・理事長が大学経営に責任をもち、リーダーシップを発揮することは、実行力ある大学運営に必要です。しかし、それが独断専行となればかえって教職員の意欲をそぎ、大学の活力は低下します。国立大学法人制度には、それを防ぐ機能が欠けています。私立大学では、理事長のワンマンによる乱脈な経営によって、財政困難に陥った大学もあります。こうした独断専行をうまない大学制度の確立が必要です。

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