2021年11月議会

岡田ゆき子議員の個人質問①子どもたちの「おひさま」に最大限の配慮を(2021年11月26日)

名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例について

岡田ゆき子議員

相次ぐ高層マンション建設から、子育て環境を守ることは重大な課題


【岡田議員】子どもの戸外での遊びは、子どもの体と心の成長にとって重要であることは、だれもが認識していることです。「おひさま」を浴びながら子どもたちが遊びまわって得られる利益を、第3者がみだりに侵害することは許されることではありません。都心の商業地域においても、地域の必要性からこれまでに多くの保育所、幼稚園、学校など教育施設が存在してきたことから、都心の開発がすすめられたとしても、子どもや子育て環境への配慮があって共に街が発展していくことは大切なことです。
 「名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例」、以下条例と呼びます。この条例は、中高層建築物を建設する際に教育施設等の日照に影響を及ぼす場合は、事業者に対し日影の影響について特に配慮を求めています。冬至の日の8時から16時までに、日影が発生する場合、当該施設の設置者との「協議」を求めています。
 条例ができて20年以上経過し、この条例制定により、建築紛争が当時年間、4,50件発生していましたが、近年では10件程度、昨年度は2件と減っています。
 一方、リニア開業を見据え、特に都心部商業地域での中高層、超高層マンションの建設が進んでおり、中高層マンションから子育て環境を守ることは、子育て家庭や教育施設等運営者にとっても、重大な課題になっています。
 こうした問題に対し、名古屋市の条例にも言及しながら、中高層建築物を建設した事業者に、厳しい判決が下された裁判がありました。裁判は結審していますが、判決をもとに、子どもたちの「おひさま」に最大の配慮をした条例にするため、住宅都市局長に質問いたします。

「協議」形骸化で日照被害防げず。幼稚園保護者が事業者を提訴
2016年に、中区にある幼稚園の真南に高層マンションの建設計画が持ち上がりました。それは、当該幼稚園で日中のほとんどの時間を過ごす子ども達から「おひさま」を奪うものでした。保護者と園は、日影や風害、建物による圧迫感等が子どもの発達権や遊ぶ権利などを侵害するとして、建設計画が示される前から、日照阻害などを最小限に抑えるよう配慮してほしいと事業者に求め、また、名古屋市子ども青少年局や教育委員会、市長にも一緒に考えてほしいと要請もされていました。
 しかし、建設計画が明らかとなって以降、条例に基づき行われた3回の事業者側との「協議」は、うち1回は建築主からの一方的な説明会であって、その後の2回の協議についても、保護者と園は協議が十分されたとはいえないとの認識で、一方的な協議の打ち切りを事業者がしないようにと、条例を所管する住宅都市局長に繰り返し要請してきました。しかし、その後協議の場は設けられず、建築確認申請が受理され、マンション建設が始まりました。
 当該幼稚園はマンションによる新たな日影から、日中の日照時間を確保するために、やむを得ず園の敷地内にあった建物を取り壊す判断をされました。その後、マンションは完成し、園庭には日影が増え、子どもの園庭遊びに影響を与える結果となりました。保護者は、新たな日影に対し慰謝料、園内の建物の取り壊し費用の支払いを求めて裁判所に訴える決断をされました。

「条例趣旨にそった協議とはいえない」 ― 判決で問われる、市の対応 
 提訴から3年経過した今年3月30日に判決が下され、当該幼稚園側が求めていた、日照を確保するために、やむなく財産である建物を取り壊した費用の支払いを事業者に命じるものでした。双方とも控訴せず、判決は確定しました。
 条例は「教育施設等に、日影となる部分を生じさせる場合には、日影の影響について特に配慮し、当該施設の設置者と協議しなければならない」としています。
 判決では、本条例について「良好な近隣関係を保持し、健全で適切な住環境の保全及び形成に資することを目的として」いるものであり、「教育施設等を生活の場とする幼児、児童等の心身の育成にとって日照が重要であり、紛争になりやすいことから、できる限り配慮を事業者に求めるもの」と説明しています。
 さらに「協議」については、判例は「単なる説明にとどまらず、当該施設の設置者らとの協議、話し合いを行うこと」だとし、その内容は「日照確保の重要性に鑑み、児童らへの影響について話し合いをすることで、より実効性のある対応策を『協議』することが求められている」と指摘しています。
 この事案の交渉過程についても、判決で触れられており、「条例の趣旨にそった『協議』であったとはいえない」と断言しています。それは、「協議」が「建設業者目線で考えた日照阻害緩和策の説明をするもので、それ以上の対応を検討することを拒否」していたから、としています。その間、保護者・園は、住宅都市局に繰り返し「協議」の再開、継続を求め、建築確認申請書を受け取らないでほしいと何度もお願いに行ったといわれています。
 裁判所の指摘を考えれば、名古屋市が、条例に基づき事業者に対し保護者・園側と真摯な協議を行うように十分対応をもとめたのかが問われています。

条例の「協議」はどういうものか。判決への受け止めは(岡田議員)
【岡田議員】住宅都市局長にお聞きします。名古屋市の条例に書かれている「協議」はどういうものですか、判決は形式的な話し合いではだめだという指摘だと思いますが、この判決の受け止めも合わせて答弁を求めます。

単なる説明でない、話し合いを求めるもの。協議で解決に至らず残念(局長)
【住宅都市局長】「条例」では教育施設等の設置者と協議を行うよう義務付けている。条例でいう協議は、教育施設等の日照等について互いの立場を尊重しつつ、話し合いを行うことが基本となり、単なる説明にとどまらない話し合いを求めるもので、広くリーフレット等で周知を図っている。
 先の判決でも、子どもの権利条約や児童福祉法の趣旨に触れ、子どもらの権利について、十分な配慮を行うことが必要とされた。
 市としては再三双方に働きかけを行い、十分に協議を行うよう求めてきたが、協議での解決に至らなかったことは残念です。

判決を重く受け止め、「日照への配慮」踏み込んだ検討を
【岡田議員】自身の権利を主張できない子どもたちにかわり、大人がその代弁者でなければなりません。保護者や園が、建設計画があると知った時、子ども青少年局、教育委員会、市長にも相談に訪れ、子どもの生活の場に影響があるので、どうしたらよいかと相談に訪れていました。しかし、「寄り添ってもらえなかった」というのが、皆さんの強い印象だったといわれています。
 判決文には、子どもの権利条約、児童福祉法、幼稚園教育要領についても引用し、繰り返し「児童の最善の利益が保障されなければならない」としています。これまでの紛争裁判の中で、子どもの最善の利益に言及した判決が出たことは、画期的なことであります。それだけ、都心の開発においても、子どもの権利は守られることを、何人も念頭に置くことを重要視しているもので、重く受け止めるべきです。2020年には名古屋市は、なごや子ども条例を改定し、権利条例として子どもの権利を擁護する立場も明確にしています。
 建築主に対し、教育施設等の日照に配慮が必要だと求めるうえで、子どもの権利に関する法令、「なごや子どもの権利条例」等について、周知に努めるなど、住宅都市局として日照への配慮に関し踏み込んだ検討をされることを求めます。住宅都市局長に答弁を求めます。

判決も参考に、条例の適切な運用に努めたい(局長)
【住宅都市局長】市では、教育施設等の日照に配慮した計画となるよう協議を義務付けている。建築主に対して丁寧な対応を求めているもので、政令市でこの規定を定めているのは本市のみです。
 当事者間での協議で解決しない場合には、双方の申し出に基づき、市による斡旋や、建築紛争調停委員による調停の制度を設けている。
 今回の判決も参考にし、今後とも中高層紛争予防条例の適切な運用に努めたい。

条例の趣旨に沿って指導してきたか
【岡田議員】建築紛争予防条例について、再度、住宅都市局長にお聞きします。答弁では、協議とは、「単なる説明」にとどまらない…話し合い」であるといわれました。しかし、判決では、条例の趣旨に沿った「協議ではなかった」と指摘しているのですが、この事案に関しても趣旨に沿って指導してきたという認識ですか。

趣旨に沿って建築主に指導してきた(局長)
【住宅都市局長】この案件でも、条例の趣旨に沿って互いの立場を尊重し、協議するよう建築主に対し指導してきた。その間、文書でのやり取り、対面でのやり取りなど約4か月半にわたり、双方で協議が行われてきた。しかし、最終的には協議がまとまらず、条例に基づく斡旋や調停の申し出もないまま、訴訟に至ってしまったことは、残念なことと考えている。

「協議」の定義を条例に明記すべきだ
【岡田議員】4か月半の間に協議はしたと言われるけれど、判決では協議の中身を指摘されているのであって、今後、判決を生かすのであれば、紛争にならないために何を教訓とするかがこの裁判を通して問われていると思います。
 判決を引用すれば、協議とは、「保育の具体的なカリキュラムの実施状況などを踏まえ」、子どもたちの「園庭における遊び」の「時間帯に、日照があることが重要である」ということを理解した上で、「十分に配慮した建築計画」に近づけていくための協議だと、そこが、事業者に伝わっていなかったのではないかと思うのです。
 判決が、市に対して直接ではなかったにしろ、「協議」の中身に踏み込んだものだったということは重く受け止めなければ、紛争を予防することは難しいと思います。
 そこで、「協議」について、その内容が事業者によりわかるように、例えば、「子どもに日影が与える影響を関係者から実情を聞き、対応策を話し合う」等、協議の「定義」を条例に明記するべきではないかと考えます。再度答弁を求めます。

条例の趣旨を踏まえ、適切に運用していきたい(局長)
【局長】条例には教育施設等に日影を生じさせる場合は、日影の影響について特に配慮し、中高層建築物の計画について、教育施設等の設置者と協議しなければならないことが明記されており、条例の趣旨を踏まえ適切に運用していきたい。

条例・要綱を充実すべき。子どもの最善の利益を守ってこそ街は発展する(意見)
【岡田議員】名古屋市のこの条例が、日影が教育施設にかかる場合は協議をしなさいと事業者に求める点では、政令市で唯一の条例だと私も思っていますし、この条例自体優れていると思います。ただ、形骸化しないようにというのが、今回の裁判の指摘ではないかと思うのです。
 今回の裁判の判決は全国でも注目されたのは、改めて、子どもの最善の利益を保障するために、紛争を防止するための調整役としての行政の役割が求められているということだと思います。
 「今回の判決も参考にして運用していく」と局長いわれましたが、条例の中身や要項についても充実を求めていきたいと思います。
 部分適切、全体不適という言葉があります。マンション一棟が立地として良くても、子育て環境を壊してしまっては、結局マンションがなかなか売れないということになってしまっては、元も子もありません。
 周りの環境、子育てに温かい街づくりがされれば、自然とマンションにも人を呼び込む条件にもなるのです。子どもにおひさまという最善の利益がまもられる名古屋の街づくりでこそ、人口も増え街が発展するという事を、強く指摘します。

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