2022年11月議会
田口一登議員の個人質問(2022年11月25日)①インボイス制度の導入はやめよ
小規模事業者及びフリーランスへの影響をどう認識しているのか
【田口議員】政府が来年10月から導入しようとしている、消費税の適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度について質問します。
インボイスとは、事業者同士の取引の際に、「売手」が「買手」に対して交付する、適用税率や消費税額等が明記された書類のことです。インボイスには、税務署から発行事業者に交付される登録番号の記載が必要です。そのため、消費税の納税を免除されている年間売上高1000万円以下の事業者はインボイスが発行できません。
消費税は、売り上げで受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引いた額を納税する仕組みになっています。現行の帳簿等保存方式では、免税事業者からの仕入れでも、消費税額を差し引くことができます。しかし、インボイス制度の導入後は、免税事業者からはインボイスをもらえないので、仕入れの消費税額を差し引くことができず、その分の納税額が増えてしまいます。そのため、免税事業者となっている小規模事業者が、単価の切り下げや取引そのものから排除される恐れがあります。
それを避けるにはインボイスを発行できる課税事業者になるしかありませんが、それは増税をもたらします。財務省の国会答弁では、免税事業者のうち161万者が新たに課税事業者になり、平均15万4千円、合計で2480億円の増税になると試算されています。課税事業者を選べば負担が増え、免税事業者を選べば仕事がなくなる。小規模事業者にとっては、地獄の選択を迫るものではないでしょうか。
しかも、インボイスの発行が必要になるのは、一般の事業者だけではありません。雇用契約によらずに「フリーランス」の形で働いている人たち――アニメーター、漫画家、俳優、声優、小説家、音楽家、食事の宅配員、ヤクルトの配達員、バーのホステス・ホストなども対象になります。その総数は1000万人前後になるともいわれていますが、こうしたフリーランスの人たちにも、インボイス制度の導入は、増税か廃業かという地獄の選択を迫るものであります。
そこで、市長にお尋ねします。市長は、インボイス制度の導入による市内の小規模事業者やフリーランスの人たちへの影響をどのように認識されていますか。
インボイス制度の導入には、日本商工会議所や全国中小企業団体中央会、日本税理士連合会などからも延期や凍結を求める意見・要望があがっています。
市長、多くの小規模事業者やフリーランスを苦しめるインボイス制度の中止・延期を国に要望すべきではありませんか。
根こそぎ課税という考え方だ。実施はやめた方がいい(市長)
【市長】根本は国の根こそぎ課税という考え方ですね。JRが自動改札にしたので、インチキするやつがいなくなったと威張ってますが、ああいうことを商売でもやれということです。伝票を全部デジタルで。マイナンバーカードも同じ思想だけど、役人のやりたいことばっかやってどうするの。もっと商売がやりよいようにしてあげないといかん。恐ろしい時代になったなあ。これ、社会主義政策ではないかと思っていまして、来年の10月はやめた方がいいで。自民党さんのためのも言っておきたい。あまりに取り締まろうという考えが強すぎてね。いかんと思いますよ。帳簿方式でもやれるわけで。商売やっている人を苦しめてはいかん。
シルバー人材センターへの影響はどれだけか
【田口議員】インボイス制度の導入は、シルバー人材センターにも大きな影響を及ぼします。シルバー人材センターの会員は、請負などの契約で働いており、センターからの配分金が月3万円から4万円と少額であるため、会員は免税事業者の扱いです。インボイス制度が導入されると、免税事業者である会員と取引関係にあるシルバー人材センターは、配分金に係るインボイスをもらえず、その分の消費税額を控除できなくなります。
しかし、公益法人であるシルバー人材センターの運営は収支相償が原則であり、新たな税負担の財源はありません。センターにとって、インボイス制度の導入に伴う新たな税負担は、まさに運営上の死活問題であります。
そこで、健康福祉局長にお尋ねします。インボイス制度が完全実施された場合、名古屋市シルバー人材センターが新たに負担することになる消費税額はいくらになりますか。
完全実施される2030年には新たに2億円の消費税負担増となる
【健康福祉局長】令和5年10月より実施される予定ですが、激変緩和の観点から、6年間の経過措置後、令和11年10月より税額控除が完全に廃止されることとなっている。インボイス制度が完全実施される令和12年度に名古屋市シルバー人材センターが新たに負担する消費税額は、同センターの試算によると、約2億円ときいている。
シルバー人材センターの死活問題だ。どのような支援を考えているのか
【田口議員】全国シルバー人材センター事業協会は、シルバー人材センターへのインボイス制度の適用を除外するなどの特例措置を政府に要望しています。特例措置が設けられず、新たに発生する消費税納税額に対する継続的な財政支援もなければ、シルバー人材センターは事業運営が困難になってしまうでしょう。
健康福祉局長、インボイス制度の導入に伴う新たな税負担というシルバー人材センターの死活問題に対して、どのように認識し、どのような支援を考えているのか、お答えください。
新たな負担のための財源はない。運営が厳しくなるので国に働きかけている
【健康福祉局長】名古屋市シルバー人材センターは公益法人であり、収入が事業に必要な費用を超えてはならないという、いわゆる「収支相償」の原則もあることから、新たな消費税負担に対する財源がなく、事業運営が厳しくなると考えている。
シルバー人材センターは、働くことを通じて、高齢者の生きがいの充実や地域社会の活性化等へ寄与する団体であり、国におけるインボイス制度の導入は、その事業運営に対する、全国的な課題です。このため、市としては、全国市長会議などを通じ、シルバ一人材センターが安定的に事業運営ができるような措置について、国へ働きかけを行っている。
入札で免税事業者を排除するような参加資格は定めないと断言を
【田口議員】地方自治体の会計もインボイス制度への対応が求められており、本市の各会計は、原則としてインボイス発行事業者の登録申請をすることになるようです。
地方自治体の一般会計については消費税の申告義務がありませんが、特別会計や公営企業会計については、年間売上高が1000万円以上であれば消費税を納めています。インボイス制度が導入されると、特別会計や公営企業会計では、免税事業者からの仕入れに含まれる消費税額を差し引くことができなくなり、消費税納税額が増えてしまいます。そのため来年度以降の競争入札の参加資格にインボイス登録を加える自治体が出てきました。そこで総務省は10月7日、免税事業者を入札から排除するのは「適当ではない」とする通知を出しました。
財政局長にお尋ねします。総務省の通知を踏まえて、本市が行う競争入札においては、免税事業者を排除するような参加資格は定めないと断言していただきたい。
適格請求書発行事業者であることを競争入札参加資格登録の要件とすることは検討していない
【財政局長】令和5年10月から、いわゆるインボイス制度の導入が予定されているが、これに伴い、市長部局としては、適格請求書発行事業者であることを競争入札参加資格登録の要件とすることは検討していない。
小規模事業者やフリーランス等に増税か廃業かを迫るインボイス制度の導入は、中止・延期するべき(意見)
【田口議員】市長はインボイス制度が根こそぎ課税だと、来年10月の実施はやめた方がいいといった。この点では認識は一致する。
私は先日、名古屋市シルバー人材センターを訪れ、話を伺いました。理事長さんたちは、「インボイス制度が完全実施されると、約2億円もの消費税を、会員、発注者、センターのいずれかが負担しなければならない。しかし、センターは、収支相償の原則から財源はない。会員のわずかな配分金を引き下げることはとてもできない。価格を引き上げて発注者に負担してもらうことは、物価高騰の折、たいへん心苦しい」などと悩んでおられました。
国は、シルバー人材センターの発注額の約3割を占める地方自治体に対して、発注価格の引き上げを要請しています。国による特例措置や財政支援が講じられなければ、本市も、センターの苦境を救うために、発注価格を引き上げなければならないでしょう。しかし、これは、市民の税金が、センターを経由して、消費税として国に吸い上げられるということです。理不尽な話じゃないですか。
インボイス制度は本市の会計にも影響を与えます。財政局長は、競争入札においてインボイス登録事業者であることを参加資格の要件とすることは「検討していない」と答弁されました。公営企業である交通局と上下水道局にも事前に確認したところ、同様に「予定していない」とのことでした。
これは当然ですが、特別会計や公営企業会計で免税事業者と契約した場合の消費税は、市民の税金、あるいは水道料金や市バス・地下鉄料金で負担しなければなりません。これも理不尽な話ではありませんか。
本市の行財政運営にも大きな影響を与え、なによりも小規模事業者やフリーランスに増税か廃業かを迫るインボイス制度の導入は、中止・延期するべきであります。10月からの実施はまかりならない。
キーワード:雇用と地域経済・中小企業、税、地方自治体と住民参加、田口かずと