2024年9月定例会
岡田 ゆき子議員の議案外質問②(9月24日)市指定の障害者グループホームが障害者を虐待 再発防止に向け、事業指定・運営指導の改善を
【岡田ゆき子議員】
障害福祉サービス事業所における障害者の虐待事案について、健康福祉局長に質問します。
「障害者の未来をもっと自由に」「多くの障害者が自立して豊かに暮らしていけるように支援活動を行っています」これは、株式会社恵のホームページに、今も残っている言葉です。その、株式会社恵が運営するグループホームで、食材の過大請求、報酬の不正請求が発覚しました。名古屋市は6月26日、「経済的虐待」と認定し、不正請求の報酬返還を求め、国は連座制を適用し、同法人の事業者指定の更新を認めないとする行政処分を下しました。この問題は全国12都県に飛び火し、営利法人による過去にない、大規模な行政処分となりました。新聞、テレビでも「なぜこのようなことが起きたのか」「未然に防げなかったのか」と指摘が続いています。
障害福祉サービスをめぐる不正は、2006年に施行された障害者自立支援法において、営利企業の事業参入が可能になって以降、増えています。厚生労働省の2021年度の公表データからも、指定取り消しや効力停止処分のあった事業所の6割が営利法人となっています。
2018年には、日中も介護が必要な重度障害者の利用を想定した、「日中サービス支援型」グループホームが新設され、重度の方の日中支援に対し手厚い報酬体系が設定されましたが、当初から営利法人の参入が増えると危惧されていました。株式会社恵も、「日中サービス支援型」グループホームの運営に手を付け、積極的に重度障害者を受け入れる営業で、全国に急展開していきました。
「申し訳なく思っている」(局長)
【岡田ゆき子議員】
新聞等では、「『儲かる』、障害者グループホーム急増」「障害者ビジネス」などと言われ、障害を理解することなく、十分な食事も与えず、暴れるからと部屋に閉じ込めるなど、障害当事者や家族の信頼と期待を裏切り、個人の尊厳と人権を踏みにじることが起きていました。家族にとっては、やっとたどり着いた施設で、事業者に苦情が言えない気持ちが大いにあったとすれば、その心情につけ込むものだったと言わざるを得ません。名古屋市が事業指定した営利法人が、長きにわたって障害者を虐待し、食い物にしてきた事実があったことについて、局長の認識を伺います。
平成24年4月に県から名古屋市に障害福祉サービス事業者の指定、指導事務が委譲されて以降、利用者やそのご家族に安心して暮らしていただけるよう、年々増加を続ける事業者に対して研修や指導を実施し、サービスの質の向上や適切な事業所運営の推進に努めてまいりました。しかしながら、今般、このような重大な事態に至る前に不正を発見できず、障害福祉サービスへの信頼を揺るがす全国的な事案となってしまったことについて、事業者を指定、指導する立場から大変申し訳なく思っております。
事業指定前の独自評価の仕組みが必要ではないか
【岡田ゆき子議員】
次に、虐待防止の取組についてお聞きします。一点目は、こうした営利法人の参入を、事業指定の段階で見極めることが出来ないのかということです。
事業指定を受けるには、指定に必要な申請書類をそろえ提出します。制度上、障害福祉の経験がない法人でも、書類が整っていれば、指定される仕組みです。唯一「日中サービス支援型グループホーム」だけは、事業指定の前に、自治体が設置した評価委員会による事前評価を受けなければならない仕組みが設けられました。それ以外の障害福祉サービスは、事業指定前に評価を受ける仕組みはありません。2017年に就労継続支援A型事業所が突如閉鎖し、障害者を大量解雇するという事件が起きました。名古屋でも大きな社会問題となった事件ですが、広島県福山市では、同様の事件をきっかけに、事業指定前にすべての障害福祉サービスを対象に、事業指定の提出書類以外に、事業計画、財務関係書類などの提出を求める独自の仕組みを作りました。さらに確認が必要と判断した場合は、管理者から聞き取りした上で、有識者による会議を開催し、事業者に意見を付したうえで指定をします。法的根拠はありませんが、こうした仕組みを設けることで、「不正の抑止になっているのでは」ということでした。「なぜ未然に防ぐことが出来なかったのか」この問いに答える一つとして、福山市のような独自の取り組みを検討することを求めます、見解をお聞きします。
「不正発覚後、指導担当職員を増員し、新規事業所に運営指導を早期に実施している」(局長)
【健康福祉局長】
議員ご指摘の、障害福祉サービスを開始する事業所に対する評価につきましては、現在、日中サービス支援型グループホームを運営する事業者に対し、指定に先立ち事前協議や有識者による評価を実施しているところです。また、株式会社恵による不正があった以降、再発防止策の一環として、令和6年度より、指導担当職員を6名増員し、体制の強化を図ったところです。加えまして、新たに、事業所運営に慣れていない新規の事業所への運営指導を早期に実施する等、未然防止のための対策を進めているところであり、今後もこうした取組みを充実させてまいります。
質の向上にむけ、運営指導体制の拡充を
【岡田ゆき子議員】
2点目に、障害福祉サービスの「支援の質の向上」をどうするかということです。昨年9月、株式会社恵による問題が発覚した後、障害者団体や労働組合などの3団体が、webによる相談を始めたところ、保護者や元職員等から200件超える情報が寄せられました。「障害理解が不十分で不適切な対応があっても気づかない」、「重度障害者はみんなこういうものという思い込み」「何も指導がないまま現場を任される」、「人手不足があっても、『なんとか回せ』と言われる」等、こうした状況が長く放置され、虐待にもつながったと考えます。
障害者が見せる様々な行動は、強度行動障害であれば、困っていることを「命がけで訴えている行動」であり、重度知的障害で動かずじっとしているだけに見えても「もっと成長したい」という強い欲求があるのであって、それらに寄り添い、健常者と変わらず基本的人権、個人の尊厳が守られるべき対象です。しかし、専門性や経験が求められなくても容易に事業参入できるため、丁寧に展開されるべき支援が後回しになってきたのではないか。行政は運営指導・監査を担いますが、書類チェックが中心の運営指導では、障害者の処遇や支援の中身を把握するには限界があります。名古屋市直営の障害福祉サービスがあれば実践の経験が、監査の場面でもいかせると思いますが、すべて民間移管したため、それもできません。ならば、運営指導・監査の際に、問題を早期に発見するため、障害者支援の実践経験のある専門員等を同席する等、検討していただきたい。
「運営指導の質の更なる向上に努める」(局長)
【健康福祉局長】
障害福祉サービス事業所への運営指導については、人員配置の状況や虐待防止の取り組みの実施状況などを確認するとともに、事業者から丁寧に状況をヒアリングすることにより、適正な運営へと導き、虐待等の発生防止や早期発見につなげられるよう努めております。そのために、指導を担う職員の間で各事業所の運営指導の状況等を共有し、常に学び合うことにより、質の高い指導を行うことができるよう取り組んでいるところです。運営指導は、個々の事業所と向き合い、直接的に働きかけることができる機会であるため、障害福祉の専門職による研修を行うこと等、指導の質の更なる向上に努めてまいりますのでご理解を賜りたいと存じます。
障害者支援の質の向上とともに、問題点の早期発見の努力を
【岡田ゆき子議員】
障害者の虐待事案について意見を述べます。「株式会社恵について、重大な事態に至る
前に不正を発見できず、信頼を揺るがす事態になった、指定・指導する立場から申し訳なく思っている」との答弁でした。今回、行政処分となりましたが、障害当事者、保護者や関係者がどれほど不安に追い込まれたことか。株式会社恵が運営するグループホームに入所していたIさんは、入所した3年前から、職員の対応が嫌で、苦痛だったと、Iさんが日中通う施設の職員さんが代わりに話をしてくれました。「Iさんは、朝、グループホームから施設に通っていましたが、到着すると、入り口のドアが割れるほど蹴って、怒りをぶつけていた」「グループホームに帰る時間になると、指で×を何度も作って、いやだいやだと意思表示していた。」と。Iさんは、強度行動障害はありませんが、食事も入浴も拒否して、嫌だという気持ちを精一杯主張していましたが、理解されなかったと言います。運営指導する側の職員が「障害福祉の専門職」の研修を受けて、質の向上に努めるとの答弁でした。そうしたことで、障害福祉サービス全体の支援の質の向上と問題の早期発見に資するよう努めていただきたいと思います。
法制度の抜本見直しが必要。障害者が安心して暮らせるよう市も引き続き努力を
【岡田ゆき子議員】
最後に、株式会社恵に象徴される障害者虐待について、福祉の現場や障害者団体の多くは、障害者総合支援法そのものに問題があると指摘します。低い報酬や不十分な人員配置基準では、障害者にしっかり寄り添った支援ができないし、職員のモチベーションに影響するといいます。逆に、人と診なければいくらでも手を抜き、儲かるという犯罪といえる問題も後を絶ちません。障害者権利条約を批准した日本政府に、制度の抜本的な見直しを求めるとともに、名古屋市においては、障害者への理解が進み、安心して暮らしていくことができる場がもてるよう、引き続き努めていただくことを求めて質問を終わります。
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